まんがゴリラ・編集「sludgeA」(2023年5月3日初版発行)

 収録作品

・加藤カズオ「東京パンク」(「劇画アリス増刊号『悪徳堕天使』」(アリス出版)発行年不明)
「町外れの夜道で、チンピラが行き過ぎの女性を強姦しようとする。
 抵抗する女は男を「変態」と罵り、男は女を扼殺。
 男はトンズラするが、彼の前に女の幽霊が現われ…」

・ケンタッキー・ゴロー「UFOデバカメ第5話 夕映えのぬれぬれワレメに汐吹きを見た!!」(「実話ナイトガールズ増刊『淫蜜夢』」(ひかり書房)発行年不明)
「夕方。
 UFO人間は、翌朝の犬の餌のソーセージに潜り込む。
 食物の中で眠ると、エネルギーが蓄えられるのであった。
 だが、家の娘が両親のコンドームを見つけたことから、ソーセージにコンドームをかぶせて、オナニーを始め…」

・佐藤はじめ「聖家族DNA」(「月刊コレクター創刊号」(かいめい書房)発行年不明)
「18歳の娘。
 年頃で彼氏が欲しくてたまらないが、彼女は絶望的に醜かった。
 父親に勧められ、彼女は全身を整形手術を受ける。
 一か月後、包帯を取った彼女は美しく生まれ変わり、早速、男もできるが…」

・作者不詳「任侠山田富三伝 いもうと慕情」(「実話とおんな」(檸檬社)1975年9月号)
「白衣組の富三親分は昔風の向こう見ずの暴力によってのし上がってきた新興ヤクザ。
 ある日、彼は家出娘をかどかわして、自分の家に連れて来てから、強姦する。
 その後、ショバ代を回収してきた子分達三人も彼女を抱く。
 だが、子分の一人が彼女の日記を読むと…」

・渡辺明「地獄の花電車」(「実話シティガール『もっと深く』」(寧良書房)発行年不明)
「どの温泉場にもある『花電車』。
 それはすなわち「実演」で、客の前で男女がセックスすることであった。
 ある「花電車」にいつも姿を現す一人の女客。
 彼女は元・売春婦で、『花電車』の男優(?)はその生き別れた息子であった…」

・つやま亜久里「人工名器の女(あるホステスの秘密)」(「事件特報」(新星社)1975年2月号)
「服部敏子(22歳/仮名)。
 彼女のアソコは処女膜再生手術を受けたことから「真空膣」となる。
 以来、彼女の人生は一変し…」

・南村洋二「ナイーブな挑戦」(「秘密の出来事」(アリス出版)発行年不明)
「『青春の病』にとり憑かれた文学者の青年。
 彼は冴子という娘に興味を抱く。
 彼女は真に孤独な女性で、全てのものを拒否していた。
 彼は彼女を抱き、彼女を捨てるが、それで得たものとは…?」

・矢の功「華麗なる変貌」(「週刊ナック情報」(浪速書房)1970年12月30日号)
「南真樹は女っぽい青年で、会社の同僚の一条義男とホモ関係にあった。
 だが、義男は専務の娘と結婚することになり、真樹は捨てられる。
 傷心の真樹は会社を辞め、性転換手術を受ける。
 一方の義男は結婚生活がうまくいかず、真樹の行方を捜していたのだが…」

・杉原みなみ「お地蔵先生」(「増刊土曜漫画」(土曜漫画社)1974年4月12日号)
「ある辺鄙な村に白石洋子という美人教師が赴任してくる。
 彼女は三か月前に東京の小学校を辞めて、わざわざこちらに移ってきた。
 生徒達に慕われ、村人達からも尊敬されており、村の男達は彼女に目を付けていた。
 ただ、彼女には一つ奇妙な噂があり、真夜中、村はずれのお地蔵さんのところで彼女の姿が度々目撃されていた。
 ある夜、男やもめの重蔵はお地蔵さんの所で白石先生と出会うのだが…」

・明智五郎「万馬券の女」(「トップパンチ」(檸檬社)1972年7月号)
「五月末の川崎競馬場。
 最終レース、ユキという若い女が大穴を当てる。
 コーチ屋が彼女に分け前を寄こせと詰め寄るが、彼女は自分で買ったと頑として譲らない。
 そこに老人が現れ、これは自分が教えたと証拠のメモを見せる。
 競馬場を去った二人はホテルへと入るが、二人の関係とは…?」
・「特別企画 矢野功先生の足跡をたどる 〜二人三脚の漫画家人生〜」
 故・矢野功先生(1940〜2020)の奥さんから聞いた御本人のエピソード等。

 これに収録された作品は「自販機本」という一般流通でないアンダーグラウンドなエロ本に描かれたものです。
 執筆者は(恐らくは)このような世界にしか活躍の場がなかった無名の者ばかり。
 かつ、漫画家として決して報われるような業界ではなかったように思えます。(注1)
 そんな最底辺な環境が生み出す「アウトサイダー」的視点は図らずも「性」の複雑怪奇な側面をあぶり出すこととなりました。(注2)
 作品の奥底には、セックスに対する虚無感、挫折感、疎外感が漂い、「抜ける」作品は一つもありません。
 実際、エロ本なのだから、露骨なセックス描写に終始すればそれで済む話なのに、この作者達は自販機本の片隅で叫びを上げる方を優先いたしました。
 ただひたすらに内へ内へと鬱屈していく雰囲気は、快楽のみを求め続けて欲望だけを肥大させていく凡百のエロ漫画とは対極にあるでしょう。(注3)
 でも、これは「性」の(歪ではありながらも)真摯な一つのあり方で、人間の存在に深く結びついているところに、絵の巧拙を超えて、価値があると私は考えております。
 このクセはあり過ぎるが「生一本」な作品の数々…「漫画」というものに興味を持つ方なら、それぞれの好みはあるでしょうが、必ずや忘れがたい余韻を残すでしょう。
 そして、そのような作品を復刻して下さったまんがゴリラさんに心からの感謝を込めて乾杯!!

・注1
 私は当時の「空気」を知らず、また、エロ漫画についての知識も大してありません。
 よって、これらの作品が最底辺な環境がもたらしたものか、「時代の空気」のせいなのか、作者の資質なのか、判断することはできません。
 より詳しい方によって語られ、評価され、また、新たな作品が発掘・復刻されるよう祈っております。

・注2
 「恐怖」が人の数ほどあるのなら、「性」も人の数だけあります。
 だが、「性」は良くも悪くも解放され、今や食欲と同じく、商品としてパッケージされ、消費されるだけの「快楽」になってしまいました。
 ハウツー本やAVに従い、ただただ画一的かつ表面的な技巧をなぞるだけ。
 それはそれで変に抑圧するよりも遥かにマシなのかもしれませんが、人間性というものから乖離しつつあるように私には思えます。
 (まあ、この意見に関しては、経験豊富な方は異論があるかもしれません。でも、あくまで『個人の感想』ですので、あまり目くじらを立てないでくださいませ。)

・注3
 そんな鬱屈しまくった作品の中で、一番の異色作はやっぱり「東京パンク」。
 あまりあまった精力を作品にぶち込み、(何故か)地球規模の破壊衝動にまで昇華されてしまった前人未到の内容は、そのアナーキーさ故に、真に「パンク」と称するにふさわしいでしょう。
 でも、ケンタッキー・ゴローや「聖家族DNA」に関しては、どう形容したらいいのやら…?
 思春期男子の描いたエロな落書きに込められたスピリットの妖しい結晶…と言ったら、やっぱ、言い過ぎだな…。

2023年6月2〜5・7・10・12・14日 ページ作成・執筆

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