高塚Q「高塚Q傑作シリーズ 青春悩電波選」(2015年9月発行)

 収録作品

・「補習バレンタイン」(「オール怪談」2000年3月)
「女子高生、森ノ宮が道端で会ったのは、修行中のキューピット、インクであった。
 インクは一人前になるため、恋人達を結びつけるチョコレートをつくる試練を受けているのだが、バレンタインを過ぎても、全くうまくいかない。
 森ノ宮に意中の人があることを知ったインクは、森ノ宮を自分の店を紹介する。
 森ノ宮は、片思い中の梅田という男子生徒と店に誘い、訪れる。
 インクは二人を結ばせるため、特別に腕を振るうのだが…」

・「アンテナ・スージー」(「オール怪談」1999年5月)
「演劇祭で自分の才能を見せつけるべく、意欲を燃やす井上先生。
 劇の内容は、科学者とロボット少女の間の恋愛を描いたものであった。
 井上先生はロボット少女役に、クラスで孤立している、引っ込み思案な女子高生、大野を選ぶ。
 大野は井上先生の信頼に応えようと、努力するが、もともとが不器用なため、井上先生の望むような芝居ができない。
 そんな大野を、ヒロインの座を狙っていた演劇部員の橋本は苦々しい思いで見つめていた。
 そして、演劇祭の前日、橋本は大野を陥れるため、策略を実行に移す…」

・「枯れ葉エレジー」(「オール怪談」1999年12月)
「初冬、病床の少女を見守る、落葉高木に一枚だけ残った枯れ葉。
 枯れ葉は少女に恋をしていたが、所詮は枯れ葉、何もできない。
 もどかしく過ごすうちに、死神が枯れ葉の前に現れる。
 死ぬ前に、枯れ葉は、少女が殺されたいと望んでいる、テレビドラマの殺人鬼に姿を変えてもらう。
 枯れ葉は、余命いくばくもない少女のベッドを訪れるのだが…」

・「影法師マント」(蒼馬社/1999年)
「劇のために、女子高生の室井は古道具屋でマントを手に入れる。
 しかし、そのマントは、影のサーカス団に通じていた。
 マントの中に引きずり込まれた室井は、団長に命令され、命を賭けた芸に臨むこととなる…」

・「放浪紙芝居」(「恐怖の館DX」1998年5月)
「公園のブランコで一人物思いに沈む女子高生、マリヤ。
 彼女は、ひそかに慕っていた猪畑先生を殺してしまったのだ。
 そこに、紙芝居屋の声が耳に入る。
 その紙芝居は、マリヤ自身のことを扱った物語であった。
 そして、マリヤは、猪畑先生との間に生じた誤解の真相を知る…」

・「記憶する木」(蒼馬社/1999年)
「女子高生の井上は、死神を視る霊能力を持っていた。
 ある日、彼女は御神木に人の形が浮き出ているのを視る。
 その木には巫女が代々生贄に捧げられていたといういわくがあった。
 もうすぐ切られることを知った御神木は、新たな生命力を得るため、井上を慕ういじめられっ子の男子高生に憑りつき、彼女を狙う。

・「セルロイド・ラブ」(「大恐怖」1998年5月)
「男子高生の北澤アキラは、自分が傷つかないために、人を愛さないよう決めていた。
 しかし、病に冒されつつあるクラスメートの女子高生、栗林に恋心を抱いてしまう。
 この気持ちを持て余したアキラは、四摩叔父に相談する。
 四摩叔父はアキラに、栗林にそっくりな理想の女性をつくるよう提案。
 そのためにアキラに見せたのが、人体をセルロイドに変える薬であった。
 以後、アキラと四摩叔父は夜道で女性を次々と襲う…」

・「天国で双六」(「絶対恐怖」1998年11月)
「天国にて、人間の運命を操る「人生双六」を管理する神様。
 神様が目を離した隙に、悪戯好きな二人の天使達が勝手に「人生双六」で遊び始める。
 そして、本来は死ぬはずだった、人生に退屈して自殺した女とサラ金のために殺された男は数奇な運命を辿ることとなる…」

・「真摯な蕾」(「恐怖の館DX」1998年1月)
「金子という画家の家を訪れた四谷は、少女の絵に惹かれる。
 その女性は、金子の妹で、もう亡くなっていた。
 その夜、四谷の夢に絵具塗れの少女が現れ、「私の目はどこにあるの?」と寂しげに問いかける。
 翌日、四谷が絵を確かめに金子の家を訪ねると、絵は青い絵の具で塗り潰されていた。
 金子によると、妹が絵から出てこないようにするためだという。
 その夜の夢で、絵を塗り込めないようにすれば、少女は復活すると、四谷は告げられる…」

・「冬の小瓶」(「絶対恐怖」1999年1月)
「会社は首になり、妻にも愛想を尽かされた、自分勝手なダメ男、中田昭。
 彼は、バーでやけ酒を飲んでいる時、鬼暮夜深子(きぐれ・よみこ)という美しい女性と知り合う。
 夜深子の家を訪れると、蜜華という、これまた美しい、世深子の娘が病床に伏せっていた。
 世深子の仕事は、「忘れたいけど、忘れられないような事柄」を封印する瓶のレンタル業を営んでおり、昭は家で受け付けの仕事をすることとなる。
 蜜華と二人っきりでウハウハしていた昭であったが、夜深子と蜜華にはある恐ろしい目的があった…」

・「残暑の印」(「恐怖の快楽」2000年1月)
「ちっとも芽の出ない、作家志望の青年、小田島康。
 夏、安アパートで創作に励もうとするものの、隣のアパートから聞こえてくる赤ん坊の泣き声で集中できない。
 耐え兼ねた康は、包丁片手にその部屋に忍び込むが、そこには美しい母親がいるだけであった。
 この母親は頭がおかしく、康を赤ん坊扱いする。
 母親の肌の冷たさに魅了された康は、その母親と同居するようになる…」

・「TVヒーロー」(蒼馬社/1999年)
「父親が外に愛人をつくり、ヒステリーな母親から暴力を受ける、佐藤ともや。
 彼は同じく、親から暴力を受けている真弓と知り合う。
 二人は、TVヒーローのガクレンジャーが助けに来ることを願う。
 二人が望んだとおり、ガクレンジャーは二人の両親に物差しで天誅を下してくれたのだが…」

 唯一無二の個性派漫画家、 高塚Q先生が活躍されたのは、「オール怪談」「恐怖の館」等のホラー漫画雑誌と、「恐怖の快楽」「大恐怖」等のエロ・グロ・レディース・コミック雑誌がメインでありました。
 現在、その手の雑誌の入手は非常に困難でありますが、そんな高塚Q先生の作品が十年以上の時を経て、復刻されたのであります。
 まさしく快挙と言うほかなく、古書ビビビの方には最敬礼であります。

 まあ、私はファンと申しましても、積極的な啓蒙活動は何一つせず、ファンと名乗るのもおこがましい限りなのですが、高塚Q先生のマンガの魅力について、脳ミソを絞ってみたいと思います。(乏しい感受性と拙い表現力には、ご寛容を願います。)
 まず、ストーリーは基本的に「ロマンチック」で、テーマは(多分)「愛」です。
 ですが、そこに異常心理や背徳感、倦怠感が織り込まれ、屈折したところに、キテレツなアイデアが捩じ込まれ、非常に特殊なものとなっております。
 下手すれば現実離れした作品になるところですが、あの独特な絵が、ストーリーに奇妙な「生々しさ」を与えているように思います。
 この絵が最大のクセモノなのでありまして、他に類を見ないものです。(長田ノオト先生に影響を受けているのでありましょうか?)
 一見すると不気味ですが、慣れてくると、艶めかしく、蕩けたような目つきのしたキャラに、ハートを鷲掴みされているんです。
 特に、この眼!! この踏み潰されたゾウリムシのような目がコマの中を自在に、広がったり、くねったり、細まったり、歪んだり、濁ったり、色を失ったりと面妖なダンスを繰り広げる様は、顕微鏡で微生物の世界を覗いたようです。
 そして、一瞬にだけ見せる「蕩けきった」表情。凶悪過ぎます…。
 この「瞳孔開きっぱなしの、何かに憑かれたような眼」をしたキャラが、ルナティックなストーリーの中で、各々の愛に殉じていく様は、計算を超えて、妙な説得力を持つように、私は感じております。
 それに展開されるは、まさしく一つの「ミクロコスモス」。
 その澱んだ虚空に散らばる、妖しい輝きを放つ異形の星座をこうして見上げることができて、私の胸は幸せではちきれんばかりです。

2017年1月2日 ページ作成・執筆

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