さがみゆき「はつ恋地獄変」(1986年10月6日発行/黄55)
さがみゆき「呪われた友情」(1988年10月16日発行/青189)

「桜井めぐみは13歳の普通の少女。
 アニメが縁となり、同級生の森田ヒロシと仲良くなる。(注1)
 が、森田ヒロシには親が決めた許嫁の京子がいた。
 嫉妬に狂う京子は、めぐみに様々な嫌がらせをするが、かえってヒロシの心は京子から離れるばかり。
 嫌がらせはエスカレートしていき、遂にはめぐみが独りの夜、京子はめぐみの家に刃物を手に押し入る。
 しかし、めぐみの逆襲にあい、京子は全身に大火傷を負ってしまうのだった…」

 怪奇マンガ史上、最狂の「Green-eyed Monster」が大暴れをする傑作です。
 冒頭の四ページからして「猫の片目にナイフを捩じ込む」という動物虐待描写が炸裂!!
 その他、自傷行為、カニバリズム(注2)を偽装しての脅かし、不法侵入に殺人未遂…と、理性を急速になくしていく様がなかなかに爽快です。
 その一方で、嫉妬を狂う相手を前に優越感に浸り、同情を引いて男の好意を得ようとする計算高い主人公の姿も、作品のドロドロさに拍車をかけ、一度足を突っ込んだら脱出不可能な底なし沼の様相を呈しております。
 更に、めぐみに熱を上げ、京子に一切同情心など抱かない森田ヒロシというキャラも、こいつの無神経な態度のためにどんどんトラブルが大きくなっており、ストーリーをより悲惨なものにするだけにしか役立っておりません。
 さがみゆき先生は昔から「サービス精神」旺盛で、貸本マンガの時代から「やり過ぎ」感のある作品が多いのですが、ここまで「やり過ぎ」た作品は滅多にありません。(注3)
 ちっとも子供向けとは言い難い内容にかかわらず、表紙でぬけぬけと「あなたにはちょっとこわすぎる話かもしれません。」なんて書いちゃってる天然さも凄いのですが…。

 ヒバリ・ヒット・コミックスについて語られる際には、川島のりかず先生、日野日出志先生、森由岐子先生の作品について触れられることは多くても、さがみゆき先生の作品に言及されることは少ないように思います。
 理由としては、過去の作品の再発ばかりで、1970年代後半以降に描かれた作品が片手で数えるぐらいにしかないためでありましょう。
 しかし、この「はつ恋地獄変」はヒバリ・ヒット・コミックスを代表する一冊、いや、1980年代に残された怪奇マンガの傑作であると(大した根拠はありませんが)断言します。
 嫉妬に狂う女性(中学生女子/13歳)をここまでバッド・テイストに描いた作品は私が記憶している限り、ありません。(他にもあったら、ごめんなさいね。)
 ストーカーによる悲惨な事件が相次ぎ、いまだにその手のトラブルが絶えない現在、また新しい読み方ができるのではないでしょうか?(注4)
 でも、やっぱり読んだら、大多数の人が(残念ながら)笑ってしまうと思います。
 極端な内容の作品故、筆が勢いあまったためでしょうか、「フヌケ〜」な描写が盛りだくさんで、怖がったらいいのか、笑ったらいいのかわからないという、妙な精神状態に追いやられてしまいます。
 それにもかかわらず、読後感は「バッド・テイスト」の一言であります。

 最後に、この作品では、心移りをした許嫁でなく、その相手女性にのみ憎悪が向かってます。
 男である私にははっきりとはよくわからないのでありますが、それが「女の考えかた」(注5)なのでありましょうか?

・注1
 ガンダムとかスパンクとか「銀河鉄道999」とか…時代を感じます。

・注2
 ここの描写を見ると、「トランス 愛の晩餐」(1982年)の影響があるようなないような…。
 私事ですが、中学生の時、お好み焼きを食べながら、ビデオでこの映画を観て、その後数年間、お好み焼きが食べられなくなった、という、ど〜でもいい思い出があります。
 あれから云十年経ちますが、決して観返したくない映画の一つであります。(冷凍庫に積み重なる、電動包丁で解体された身体…)

・注3
 この作品に匹敵するのは「美少女とカラス」(aka 「血まみれカラスの呪い」)ぐらいのものでしょう。
 しかも、この作品、貸本時代に描かれた「奇女を銀の皿に」に加筆されたものらしいのです。(「奇女を銀の皿に」は未入手。)
 約半世紀も前に、こんなイカレた作品を描くなんて、さがみゆき先生、やはり凄すぎます。
 あと、名作「人喰い屋敷」も忘れてはいけませんね。

・注4
 この作品にちょっぴり似ているような事件も過去にありました。
 まあ、関係者はさっさと忘れ去られてほしいでしょうから、詳しくは語りません。

・注5
 ラフカディオ・ハーン「怪談・奇談」(角川文庫)収録の「破約」(p183)より引用。
 百年以上も前の作品ですが、意外にグロテスクで、なかなか怖い作品です。
 この短編のバリエーションは幾多とありまして、怪談の古典と言っていいと思います。

平成27年12月11日 ページ作成・執筆

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