日野日出志「蔵六の奇病」(1976年3月25日発行)

・「蔵六の奇病」(「少年画報」1970年9号)
「昔、さる国に「ねむり沼」と呼ばれる沼があった。
 不思議なことに、その沼には死期の迫った動物達が集まってきて、村人達は祟りを恐れ、決して近づくことはない。
 ねむり沼の近くにある村に、蔵六という農夫が住んでいた。
 蔵六は幼い頃より頭が弱く、絵を描いたり、日がな一日、ぼんやりと物思いに耽ったりして過ごしていた。
 彼の願いはただ一つ、あらゆる色を使って、絵を描いてみること。
 しかし、彼の頭では色をどうやって手に入れたらよいかがわからず、願いだけが日増しに強まっていくのであった。
 ある春のこと、彼の顔に七色のできものができる。
 できものは全身に広がり、身体中が異様にむくむが、医者に診せても、皆、お手上げであった。
 病気が伝染する恐れがあり、兄の太郎と父親は、蔵六をねむり沼にある小屋に住まわせる。
 ただ一人、母親だけは蔵六を心配し、食料と薬を運んでくれた。
 梅雨、蔵六のできものからは七色の膿が出て、下半身が異常に膨らんでくる。
 彼は膿を色ごとに容器に取り分けて、絵を描くことを思いつく。
 蔵六は夢中になって絵を描き続けるが、季節が過ぎるにつれ…」

・「水の中」(1970年)
「自動車事故により四肢と片目を失った少年。
 彼は、団地の最上階の部屋で、母親と共に暮らしていた。
 外で遊ぶことはかなわず、彼は、熱帯魚の棲む水槽の中に冒険と夢の世界を見出す。
 父親も少年と同様、自動車事故で亡くなっていたため、母親は朝から夜の遅くまで働き、仕事から帰った後は、愚痴一つこぼさず、少年の世話をする。
 ある時、母親は、もっと楽に稼ぐために、水商売に出ることになる。
 夜の仕事を始めてから、母親はどんどん美しくなっていくが、同時に、彼に対して冷たくなり、暴力を振るうようになる。
 そして、ある夜のこと…」

・「はつかねずみ」(「少年画報」1970年15号〜17号)
「郊外に新築のマイホームを構える一家。
 小学生の兄は、ペット・ショップではつかねずみのつがいをもらい、妹と共に世話をする。
 ある時、兄は指を噛まれたことに腹を立て、餌を数日やらなかった。
 すると、オスのはつかねずみはメスと産まれた子供を食い殺して、脱走。
 兄妹は新たに十姉妹を飼い始めるが、はつかねずみが成長して戻ってくる。
 はつかねずみは十姉妹を食い殺し、兄は退治しようとして、右手の人差し指の第一関節を喰いちぎられる。
 兄妹の部屋ははつかねずみに占拠され、一家ははつかねずみを退治しようとするものの、全て失敗。
 しかも、一家は巨大なはつかねずみの監視下に置かれるようになる。
 だが、一家は、はつかねずみに支配されながらも、着々とある計画を練っていた…」

・「百貫目」(「少年画報」1970年13、14号)
「山の麓の一軒家。
 その家の長男は、気は優しくて力持ちの青年。
 彼が九人の弟や妹たちと野山で木の実や山菜を取っている間に、両親と祖父母は夜盗に殺され、家が焼かれる。
 彼らはこの地を離れ、鬼の面をかぶり、地方の村々で食べ物を盗んで、生きていく。
 特に、巨大な鬼を人々は「百貫目」と呼んで、恐れた。
 しかし、「百貫目」たちがいくら食料を得ても、百貫目は食欲旺盛で、満腹することがない。
 更に、冬が近づき、また、村では自警団を作るようになったため、状況はますます厳しくなる。
 そこで、彼らは庄屋の家から盗んだ着物や宝を都に売りに行くのだが…」

 日野日出志先生を代表する一冊というだけでなく、ひばり書房を代表する一冊でもありましょう。
 珠玉の作品「蔵六の奇病」、幻想的な「水の中」、凶暴な寓話「はつかねずみ」、『生きる』ことについて考えさせられる「百貫目」とどれも怪奇漫画史に残る傑作ばかりです。
 中でも、「百貫目」は地味にトラウマ度が高い、隠れた名作です。(横腹がすっかりたるんでしまった私は、食い意地の張った主人公に心底共感してしまいます。燃費の悪い身体は実に恨めしいものです。)

2023年4月1日 ページ作成・執筆
2023年11月30日 加筆訂正

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