山岸凉子「時じくの香の木の実」
(1987年2月17日初版・1989年10月25日8版発行)

 収録作品

・「常世長鳴鳥(とこよのながなきどり)」(1985年「グレープフルーツ」27号)
「杉森雪影(ゆきえ)の姉、花影(はるえ)は、病弱だったことから、家族の関心を一身に集めていた。
 更に、彼女は、平凡で冴えない妹と較べて、非常に美しく、特に、祖母は溺愛する。
 幼い頃から、雪影は疎外されていると感じ、姉への憎悪を募らせる。
 片想いをしていた男子が姉に好意を持っていると知り、また、大学進学を親からあきらめるよう言われたことから、雪影の憎悪は殺意へと変わる…」

・「青海波(せいがいは)」(1982年「グレープフルーツ」7号)
「鳥居多(とりい・まさる)は、海の近くの家に、兄夫婦と住んでいた。
 彼の眼は見えなかったが、代わりに、死者の姿を視、会話することができる。
 ある日、兄夫婦のもとを、兄の友人が訪ねてくるのだが…」

・「副馬(そえうま)」(1983年「グレープフルーツ」10号)
「古代の日本。
 尺麻呂(さかまろ)は、祖父は土師(はじ)であったが、無位のままで、墓作りで生活していた。
 ある日の仕事の帰り道、彼は、小型の馬の埴輪を見かける。
 その森は、由緒ある御方の墓と伝えられていた。
 彼は、埴輪を持ち帰り、取れていた後ろ脚を付け直す。
 その夜、彼の家を、高貴そうな若い男性が訪れる。
 すると、埴輪の馬が本物の馬へと変わり、男性は馬に乗って立ち去り際、尺麻呂に首飾りを放って渡す。
 それは、翡翠、琅坩(ろうかん)、紅玉等が使われた、大変、素晴らしいものであった。
 だが、それ故に、彼に盗掘の疑いをかけられる…」

・「天沼矛(あめのぬぼこ)」(1986年「グレープフルーツ」27号)
「第一話 夜櫻」
 一人ぼっちで、とても寂しい神さまがいた。
 神さまの御殿はいつも夜で、庭には満開の夜桜が絶えず散りしきる。
 神さまが寂しさのあまり流した涙は小さな水沼となっており、神さまはふと沼矛(ぬぼこ)を思い出す。
 それは、太古に神さまをつくった二柱の親神さまが残したものであった。
 神さまが天沼矛で水沼をかきまわし、そっと引き抜くと、一滴の雫から美しい少女が生まれる。
 だが、神さまの下半身は蛇で、少女はその姿を恐れ慄く。
 神さまは己の姿を恥じ、花霞の帷の中へ身を隠すのだが…。
「第二話 緋櫻」
 佐江子は、秋に駿という男性と結婚する。
 F市にある実家に二人を家を建てることになるが、そのためには、昔からある桜を切らなくてはならない。
 彼女は、桜の木には「丑の刻参り」のイメージを持っており、子供の頃には悪夢をよく見ていた。
 その桜を伐採する時、彼女の悪夢の真相が明らかとなる…」
「第三話 薄桜」
 小学六年生の節(たかし)は、右肺に影があったため、東京郊外の療養所で過ごすこととなる。
 両親は、割烹店の仕事で忙しく、退屈で鬱屈した寂しさの日々を送る。
 彼と同じ病室には、荒雄という、頬がこけ、目元が鋭い少年がいた。
 彼の病状は重いらしく、二年もここ滞在していた。
 彼は名前通りに粗暴で気難しく、同室の少年達とは決して交わろうとはしない。
 クリスマスの日、節と荒雄は病室に二人取り残される。
 すると、荒雄はクリスマス・パーティのセッティングを始め、看護婦等も交えて、にぎやかにパーティを行う。
 しかし、彼が愛想が良かったのは、その日だけで、また、普段の素っ気ない態度へと戻る。
 節は一度は健康を回復するも、不摂生がたたり、また療養所へと戻る。
 桜が散りだす頃のある夜、彼は窓の外に人魂を見るのだが…」

・「水煙」(1986年「ASUKA」5月号)
「継体天皇(26代)の王子の一人である阿豆王(あつのきみ)。
 だが、彼の母親は、河内の阿倍ハエ媛(あえのはえひめ)の下女であった。
 彼が13歳の時、養育者のクロヒトが病死したのをきっかけに、磐余(いわれ)の都へと向かう。
 彼が目指したのは、大王という大きなものでなく、立派な武人になることであった。
 都で彼は大王が重い病にかかっていることを知り、大王の第一王子、勾大兄王子(まがりのおいねのおうじ)の弟、檜隈王子(ひのくまのおうじ)の館へ潜り込む。
 策略陰謀が渦巻く中、彼はどうにかして父親に一目会いたいと願うのだが…。
 そして、彼の前に度々姿を現す、次次雄(すすお)という男の正体とは…?」

・「時じくの香の木の実(ときじくのかくのこのみ)」(1985年「ASUKA」10月号)
「ある日、日向(ひゅうが)と、姉の日影は、一族の前で、奇妙な果実を食べさせられる。
 日向と日影は同じ八歳であったが、日向は正妻の子、日影は妾の子ではあったが、日影の方が二か月早く産まれていた。
 果実を食べると、どちらかが「永遠に年を取らない者」になると言うが、食べた直後、二人は猛烈な激痛に襲われる。
 どれほどの時が経ったか、日向は目を覚ます。
 気分は冴え渡り、長い廊下を進んだ先の部屋では、姉が全身、青ぶくれとなって死にかけていた。
 日向は自分が、一族の頂点たる巫女(ふじょ)になったことを確信するが、それと引き換えに、聴力を失う。
 漠然と時が流れ、一年後、日向は日影が生きていることを知る。
 また、日向には、たくさんのお供え物と共に、様々な相談事が寄せられるようになる。
 すると、はるか先の理(ことわり)を見通すかのように、彼女の頭に答えが浮かび、一族は繁栄していく。
 そして、時が流れるにつれ、日向は年を取らないのに、姉の身体は成長していく。
 日向は、姉の醜い身体を軽蔑し、せせら笑っていたのだが…」

 「時じくの香の木の実」は傑作です。
 独特のエロチシズムが全体に渡って流れ、不思議なラストを迎えます。
 「常世長鳴鳥」は、「病弱だが、美しい姉に嫉妬憎悪する妹」というよくある話ですが、山岸先生が描くと、どうしてこんなに禍々しくなるんだろう…?
 あと、古代日本を舞台にした作品は、私の知識・理解力不足のため、充分に説明できておりません。
 申し訳ない…。

2021年1月5日・12月31日 ページ作成・執筆

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