「オール怪談・増刊」(300円)
収録作品
・浜慎二「趣味」
「金のない平社員の青年。
日曜日、散歩をしていると、ケチで有名な課長が別荘を買うために郊外に出かけるところであった。
課長に同行すると、人気のない寂しい土地に、恐ろしく古風な屋敷があった。
青年が外から様子を窺っていると、課長は代金の前金として50万円を屋敷に住む老婆に渡す。
その金を老婆は札束のぎっしり詰まった箱の中にしまう。
帰りの電車で課長に話を聞くと、この老婆は大金持ちで、屋敷を売った後は、死ぬまで老婆を置いておくという契約なのであった。
だが、帰宅途中、青年と課長を乗せたタクシーが事故を起こし、課長は即死。
青年はこの屋敷を手に入れるため、大金を借金して、屋敷を手に入れる。
ただ、一つ誤算があった。
この老婆が見た目以上に健康で、いつまで経っても死にそうにないということ。
借金の返済が迫り、切羽詰った青年は最後の手段に打って出るが…」
「怪談・51」からの再録。タイトル・ページをご覧になりたい方はそちらへどうぞ。
・小島剛夕「月に背く者」
「戦乱の世。
互いの不可侵を約するために、領主と領主が質子(ちし/人質)を交換するのが慣わしであった。
ある城に敵方の城より、暗い宿命を背負った、依姫(よりひめ)という美しい姫が送られる。
人質櫓に監禁される身となった依姫は、地虫という、せむしの醜い老人の番人と、孤独な生活を送る。
敵方からの人質として、極めて劣悪な環境に置かれる依姫だが、地虫はかえがえしく依姫の世話をする。
地虫の真心が姫の心を温め、依姫は今まで人間扱いされたことのない地虫に美しい心情を見出す。
ある夜、姫のもとに美しい櫓番の若衆が現わる。彼は夜の一刻だけ姫の相手をして、姫の寂しさ、哀しみを癒してくれる。
彼には悲しい生い立ちがあり、父親は卑しい櫓番、母親は依姫と同じく人質で、その二人の真心が結ばれて産まれたのが彼だった。
父母共に成敗され、青年はその生まれ故、ずっと櫓番をしていると話す。
二人の逢瀬は毎夜続くが、ある日、敵側が城に攻撃を仕掛けてくる。
和睦を図るために、依姫は返還されることとなるが、人質櫓を出ようとする時、若衆の正体を知る…」
「オール怪談・39」からの再録。タイトルページをご覧になりたい方はそちらへどうぞ。
また、菊地秀行氏・編「貸本怪談まんが傑作選 妖の巻」にて復刻された名作でもあります。
美しい話です。泣けます。
・古賀新一「ある殺人犯」
「たった一人の身内の兄を交通事故で失い、悲嘆に暮れる弟。
ところが、奇蹟なのかどうなのか、兄が棺おけから生き返る。
生き返った兄は金のない弟のために、悪巧みを考え付く。
まず、弟は、人を殺した後に凶器のピストルをなくした金持ちの息子を演じ、銃器を扱う店にそのピストルを探し出すよう依頼。
そして、兄は持っていたピストルを銃器を扱う店に持っていき、その銃をなるべく高値で売るという筋書きだった。
しかし、銃器を売りに行った兄がいつまで待っても帰ってこない…」
・福田三省「呼ぶ屍(しかばね)」
「元・特攻隊の生き残りで、今は死体置き場のプールの管理人をしている男。
彼は、同じく特攻隊の同期で出世した男を殺害して、プールに沈める。
うまく死体を始末したものの、今度は暴力団から死体の始末を依頼され…」
「オール怪談R」からの再刻。
・小島剛夕・作 西村つや子「浮雲」
「明治二十六年(1893年)、東京。
雪の降る夜に今日も河岸に流しにでかける、(人力車の)車夫の老人。名は恭次郎。
恭次郎の人生は挫折の連続であった。
彼の青年期、貧しい旗本の子であった彼はアメリカ留学を賭けて、猛勉強をするが、試験に失敗。
長崎で三年間勉学に励むものの、試験のため、江戸に戻ろうとする際に、病気で倒れてしまう。
時代の波に飲まれ、彰義隊で死刑になるところを、新政府のもとで出世した旧友の源之介に助けられる。
そして、源之介に昔から想い合っていた梢のもとに行くよう諭されるが、梢の幸せを思い、身を引く。
しかし、梢の面影を一日たりとも忘れることはできなかった…」
wikipediaによると、小島剛夕先生のチーフ・アシスタントを勤め、美女キャラを多数描いたという西村つや子先生との連名作品であります。(タイトルにはありませんが、目次ではそうなっております。)
連名にするだけのことはあり、西村つや子先生の手による、艶々しい、素晴らしいコマがいくつかあります。
個人的に感銘を受けたページを右に載せておきますので、ため息をついてくださいませ。
・古谷あきら「皆んなあ奴が悪いんだ」
「幸せいっぱいの若い夫婦。
彼らが休日を楽しんでいると、占い師の老婆が声をかけてくる。
老婆によると、妻の誕生日は4月13日…しかも、金曜日。
そして、妻と同じ運命をする人間がこの世にもう一人いて、その人物が死ぬ時、妻も死ぬという。
き○○いだと夫は相手にしなかったが、とある夜、電車の運転手だった夫は轢死事件に巻き込まれる。
ある質屋が強盗に遭い、手負いを負いながらも、質屋は強盗を負い、線路上でもみ合っているうちに電車に轢かれてしまったのだった。
そして、その質屋の誕生日が4月13日の金曜日。
質屋が轢死した時間に彼の妻も交通事故で死んでしまう。
夫は強盗に復讐を決意し、姿を消すのだった…」
この作品に出てくる占い師の老婆は、いばら美喜先生の「虫ケラ」に出てくる老婆の模写と考えて間違いないでしょう。
女性キャラもかなりいばら美喜先生の影響を受けていると思います。また、小島剛夕先生ちっくなキャラもいます。
だからと言って、貶めるつもりはありません。
大家の影響を受けつつも、自分の「まんが道」を探っていた漫画家が無数に(そう、無数に!!)いたはずです。
彼らを敗残者だと誰が言えましょう…自分を顧みて、夢を実現できたと胸を張って言える人間がこの世にどれだけいるのでしょうか…?
中表紙の、ソンブレロを被った、ギターを弾く骸骨の絵(浜慎二先生の筆による)が、メキシコの画家ホセ・グアダルーペ・ポサダを連想させます。
この「ホネホネロック」な画家の作品をもっと見たいのですが、画集等、出てるのでしょうか?
扉絵と浜慎二先生の「趣味」が「怪談・51」からの流用です。
・備考
カバー破れ(上部の背表紙より大きな裂け)及び痛み。糸綴じ穴あり。後の遊び紙に計算した数字の落書きあり。
2014年11月23日 執筆・ページ作成
2016年8月15日 加筆訂正
2017年10月22日 加筆訂正