森由岐子「怪談くろ髪日記」(220円)

「明治時代。
 華族の娘、北条貴久子は、身分にふさわしい教育を受け、また、その美しい容姿は他にたとえようのないものであった。
 貴久子の屋敷の御庭番の息子、根本啓一は、貴久子を遠くから眺めながら、彼女への思慕を深めていく。
 啓一は、二人の間の身分の差があまりにも開いていることを知りながらも、自分の愛を貫くことを決意していた。
 ある日、啓一は、貴久子にしつこく求婚している本郷宗重を、彼女の目の前で殴打する。
 本郷宗重は貴族でありながら、あくどい方法で金儲けをしており、没落しつつある北条家への借金を理由に、貴久子を手に入れようとしていた。
 今すぐ啓一を首にするよう迫る宗重に、貴久子はどうかして啓一をかばおうとする。
 その間に、啓一と貴久子の間に本物の愛情が芽生え、育つ。
 だが、ある夜、北条家の屋敷が火事になる。
 建物は全焼し、啓一の父親は帰らぬ人となる。
 しかも、宗重が嘘の供述をしたことにより、啓一は放火犯人として、警察に捕まってしまう。
 警察では日々啓一による拷問が行われるが、啓一は断固として無罪を主張。
 一方、喜久子は父親を亡くし、半ば強制的に宗重の屋敷に引き取られ、婚約させられる。
 しかし、宗重から、啓一が死刑宣告を受けたことを聞かされ、ある吹雪の夜、啓一を名を呼びながら、外をさまよう。
 時を同じくして、貴久子に最後に一目会うべく、啓一は脱獄して、逃走中であった。
 凍死した貴久子の死体を発見した啓一は、喜久子の死体が手にしていた日記を読み、彼女も彼を愛していたことを知る。
 喜久子の死体を抱きかかえた啓一は、駆け付けた警官隊によって射殺。
 啓一の死体は刑死人用の墓地に、喜久子の死体は北条家の墓地にそれぞれ埋葬されるのだが…」

 唐沢俊一&ソルボンヌK子「森由岐子の世界」(白夜書房)にて紹介された作品です。
 森由岐子先生の作品に珍しく、男の主人公が優柔不断で無気力な「だめんず」でなく、「熱血漢」であるところが斬新です。(いずれにせよ、ストーリーは悲惨な方向に突き進みますが…。)
 まあ、この作品も、内容は典型的な「悲恋もの」でありますが、個人的にはかなり好きです。
 ただ、「怪談」と銘打っているわりには、怪奇色は非常に薄いのが、ちと残念ではあります。
 でも、考えようによっては、怖い話やロマンチックな話は好きだけど、グロい描写が苦手な少女達にはちょうと良かったかも。

・備考
 恐らく、非貸本。小口に電話番号らしき数字と持ち主の名前の記入あり。

2017年3月16日 ページ作成・執筆

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