戸塚悠子「南から来た死人形」(220円)
「大内京子は母親の死後、ミッション・スクールに入った影響で、クリスチャンであった。
ある日、彼女の父親が勤務先の病院の屋上から謎の転落死を遂げる。
目撃した看護婦によると、上半身だけの影のようなものが首を絞めて、父親を突き落としたらしい。
真相は明らかにならないまま、京子の父親は葬られるが、彼女は父親が過去に恨まれることをしたのかと訝る。
一人になった京子は、父親と南方で戦った戦友である松山氏のもとに、家庭教師として住み込むこととなる。
彼女が面倒を見る少女は、松山氏の姪のリエであったが、長い間、かまってもらえなかったために、自閉症の気があった。
京子が松山家に住み込んで二週間後、松山氏をインド人が訪ねてくる。
松山氏は不在だったため、京子が応対すると、インド人は必ず松山氏本人が開けるよう念を押し、包みを渡す。
松山氏の帰宅後、松山氏が包みを解くと、中からインド人女性の蝋人形が現れる。
人形の眼には翡翠(ヒスイ)が埋め込まれていることを京子が指摘すると、松山氏は顔色を変える。
松山氏は人形を焼くように京子に言うが、この人形を見かけたリエは人形を気に入り、手放さくなる。
その夜からリエは毎夜、人形に首を絞められる夢を見るようになる。
このことを知った松山氏はリエから人形を取り上げ、暖炉で焼こうとするのだが…。
京子の父親と松山氏の戦争中の過去にまつわる秘密とは…?
そして、人形の魔手は、京子とリエにも迫る…」
タイトルがまず、いいですね。
「南から来た〜」と来ると、妙に想像力をくすぐられます。(注1)
やはり言葉から「エキゾチズム」な印象を受けるのでありましょう。
でも、残念ながら、内容はタイトル負けしております。
「人形」を扱ったホラーではありますが、如何せん、サリーを巻いたインド人女性の人形では、西洋人形や日本人形ほど、迫力がないように思います。
また、設定も中途半端で、京子の父親達の過去があまり突っ込んで語られないのも、リアリティを欠く原因になってます。
そして、御都合主義なラストと、正直なところ、全体的にイマイチです。
とまあ、非難ばかりしてしまいましたが、どんなものにも見どころはあるものでして、暖炉の火から手が出て、暖炉の中に引きずり込まれる描写はなかなか面白いと思います。
・注1
この手のタイトルで最も有名なものは、ロアルド・ダールの「南から来た男」でありましょうか。
名短編集「あなたに似た人」(ハヤカワ文庫)に収録されております。
・備考
状態悪し。I文庫仕様(カバー裏に新聞紙等による補修。表紙を本体から取り外し、本体を何らかの厚紙で覆っている)。糸綴じあり。カバー痛み(特に、背表紙がボロボロ)。pp35・36の下半分に大きな欠損。
2017年3月22日 ページ作成・執筆