杉戸光史「聖少女の牙」(230円)

「お盆休み、友人の綾子の田舎に向かう、誠二とまゆみの兄妹。
 途中、二人は異様な光景を目にする。
 烏が立ち騒ぐ中、着物姿の女性の空中に死体が浮かんでいるのであった。
 死体は地面に落ち、二人が死体に駆け寄ると、死体はひどく破損されて、二目と見られるものでなかった。
 更に、林の中からカラス猫(黒猫)が現れ、死体の胸の上で二人を威嚇するように鳴き声を立てる。
 あまりの不気味さに二人は慌ててその場を離れるが、綾子によると、村では火車の伝説が復活したと聞かされる。
 ここ最近、人が亡くなると、どこからか烏とカラス猫が現れ、死体が消えてしまう。
 それも、他人が持って逃げたとか掘り出したという形跡はなく、葬式の場から歩み去ったり、墓穴から這い出したりした様子。
 更に、死体が発見された時には、見るも無残な状態になっていると言う。
 その話を精霊流しの折にしていると、彼らの前に、カラス猫を胸に抱いた娘が現れる。
 その娘は、一年前に事故死した、誠二のフィアンセ、明子に瓜二つであった。
 誠二はその娘を追おうとすると、謎の少年に邪魔される。
 憤る誠二に、少年は、命が惜しいなら、女の後を追うなと警告し、姿を消すのであった。
 次の夜、誠二はその娘に会うために、最初に出会った池へと出かける。
 まゆみと綾子もその後を追うが、池には兄の姿はなく、その代わりに、あのおかしな少年を見かける。
 少年を付けていくと、少年は森の中の洋館に忍び入る。
 少女達も続けて洋館に忍び込むと、まゆみがうっかり地下室に転げ落ちてしまう
 地下室には床に様々な骨が散らばり、何かの秘密があると二人は悟る。
 そこへちょうど館の持ち主の老人が帰宅し、地下室に降りてくる。
 慌てて物陰に身を潜める二人の前で、老人が箱の蓋を開けると、中からミイラ化した少女が現れる。
 少女の正体は…?
 そして、誠二の亡きフィアンセそっくりの娘は一体何者なのであろうか…?」

 実は、「ゾンビ」マンガなのであります。
 ネタばれですが、キチガイ博士が死体を蘇生させ、そのゾンビ少女達の超能力を使って、死体を操って奪っていた、というもの。
 そして、これが重要なのでして、死体を盗んでいた理由は「ゾンビ少女達のエサ」なのでありました。

 周知のことと思いますが、ゾンビによるカニバリズムを最初に描いた映画が、ジョージ・A・ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」(米/1968年)であります。
 この映画は日本未公開で、ビデオが普及するまでは怪奇映画ファンの間では幻の映画でありました。
 にもかかわらず、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」公開とほぼ同じ頃に、日本でも、ゾンビによるカニバリズム描写があったということは、個人的には、注目に値すると考えております。
 ただし、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」はカルト・ムービーとして輝かしい名声に包まれ、今現在でも観賞に耐えうるのに対し、「聖少女の牙」の方は「トホホ〜」なゲテモノ・マンガでしかありません。
 比較しても詮無い事でありますが、あの時代に、グロを前面に押し出した「ゾンビ」マンガを描いていたことはいくら称賛してもし過ぎることはない!!…と「ゾンビ」大好きな筆者は断言する次第であります。

 ちなみに、ゾンビ少女のうち、一人は「不死子(ふじこ)」と名付けられております。
 同じ時期に描かれたと推測される、池川伸治先生の「鬼」(東京トップ社)にも同名の少女が出ております。
 この「不〜死子ちゃ〜ん」は太陽プロ内でブームだったのでありましょうか?

・備考
 カバー貼り付け。カバー痛み、また、裏側の上部、一部欠損。前側の袖、欠損。

2016年10月31日 ページ作成・執筆

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