森由岐子「私を招く死の世界」(220円)



「心臓に持病を持つ少女、丘洋子は、美しい容貌もさることながら、心の純真な少女であった。
 彼女と小島ゆたかは、互いに「ヨッ子」「ユウタン」と呼び合う、相思相愛の仲。
 ゆたかに片想いをする、田代まさみは、洋子に嫉妬の炎を燃やし、親友面をする裏で、様々な嫌がらせをする。
 文化祭では「源氏物語」のヒロインに抜擢された洋子に興奮剤を飲ませて、その役を奪う。
 箱根への遠足では、洋子を強引に遠足に参加させ、山登りで心臓に負担をかけさせる。
 遠足の際に無理をしたのが原因で、洋子は寝たきりの身となってしまう。
 死期を悟った洋子は死に怯え、ゆたかはそんな彼女に身が引き裂かれる思いであった。
 洋子が死んだら、自分も死ぬと、ゆたかは彼女に約束するが、まさみが病室の外でこの言葉を聞き、病室に乱入。
 罪を犯していない人間はなく、死んだら、皆、地獄行き、かつ、生まれ変わっても、畜生オンリーと、洋子の絶望に油を注ぐ発言をする。
 結局、このショックのせいか、洋子はその夜、息を引き取る。
 そして、洋子の霊魂が向かった先は、如何にも東洋的な極楽であった。
 その頃、洋子の訃報に接した、ゆたかは、彼女の後を追うべく、電車に跳び込もうとする。
 だが、洋子の霊が、彼の自殺を止まらせ、自分の分まで生きるよう訴えながら、消えていく。
 翌日、まさみはライバルの死に大はしゃぎ。
 ルンルン気分で帰宅途中、タクシーに撥ねられる。
 まさみの霊魂は、彼女が洋子に話した通り、「地獄」に堕ちるのであった…」

 唐沢俊一&ソルボンヌK子「森由岐子の世界」(白夜書房)にて紹介された作品です。
 この本で力を込めて解説されておりますので、詳しいことをお知りになりたい方はご一読を。

 この作品は、半世紀も前に「死後の世界」について真正面から取り組んだ貸本怪奇マンガの傑作です。
 私の印象では、「地獄」を扱った描写は幾つか目にしておりますが、「極楽」の描写にここまで力を入れたのは、あまり記憶にありません。
 あまりにステレオタイプな「極楽」ではありますが、そのストレートさ故に、妙に魅力的です。
 また、「地獄」の描写は、故・中川信夫監督のカルト・怪奇映画「地獄」の影響があるように思います。
 こちらの方は「極楽」の描写よりもページ数が倍あって、あの手この手で拷問にあっており、期待を全く裏切りません。
 惜しむらくは、もうちょっとネチっこく描いたら、文句なしの傑作になったはずです。(極楽に較べて、あっさりしてます。)
 個人的には、森由岐子先生は「地獄」よりも「極楽」の方が描きたかったのではないか、と推測しております。(描き下ろしなので、最後の方は、精も根も尽きていたという可能性もあります。)
 ともあれ、森由岐子先生による「天国と地獄」、オカルト・怪奇漫画の元祖の一つとして評価してもいいのではないでしょうか?

・備考
 ビニールカバー貼り付け、また、そのための歪みや痛みあり。糸綴じあり。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕あり。

2017年10月14日 ページ作成・執筆

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