松下哲也「鷺娘」(220円)
「戸田裕一は、母のお治(お・はる)と、母が仕えるお夏と共に、花咲家の門をくぐる。
花咲家は昔、この山奥の地で、酒蔵業で栄えた家柄であったが、今では家運も傾きつつあった。
花咲家は代々女性が当主を務め、今の当主は花咲きよ。厳格かつ高慢な婆さまであった。
そして、次期当主の美弥は、以前、ここで働いていた女中のお夏と、そこの主人の間でできた子だった。
お夏は美弥を花咲家に養子に出し、半年に一度、花咲家を訪れることになっていたのである。
窮屈なお屋敷を脱け出した裕一は、鷺がたくさん棲んでいる池を見つける。
そこで、彼は白い着物を着た美しい少女と出会うが、彼女が花咲美弥であった。
花咲のお屋敷では、きよはお夏とお治を美弥と会わそうとしなかったが、裕一の手引きで、二人は窓ガラス越しに美弥の姿を見る。
すると、裕一の母親のお治が涙を流し出す。それを見て、裕一は訝るのであった。
程なく、お治は病気にかかり、衰弱していく。
お治の願いは最期に美弥に会うことであったが、花咲きよに美弥に決して会わないようきっぱり言い渡されていた。
お治は病の身をおして、雨の中、美弥に会おうと花咲のお屋敷を訪れるが、美弥は修養のために北海道にでかけたところであった。
悲嘆に暮れたお治は、屋敷の井戸で死体となって見つかる。
そして、数年後、高校生の美弥が花咲家に帰ってきた時、欲望と憎悪の絡まりあった人間関係が明らかになる…」
悪い話ではないんですが、わかりにくい話です。
ただ、かなり力を入れていることは確かだと思います。
(前編が「女系図」、後編が「斜陽」と名づけられております。う〜ん、文学青年ちっく。ちなみに、泉鏡花「女系図」読んだことないです…。)
後書きによると、「多少年代を上げて描いて」いることなので、内容的には、色気という意味ではなく、ドロドロしているという意味で、アダルト・テイスト。
ただ、ファンタジーの要素が入っていますので、三田京子先生の作品のよりも、読後感は爽やかだと、個人的には思います。
あと、後書きページの松下哲也先生の写真がなかなか貴重。
粗い写真ですが、かなりの好男子っぷりです。写真から受けた印象では、かなり「男らしい」人だったように思えます。
「ドクシン」とか「ヨメハン マッテマス」と書かれてますが、もう三田京子先生が側におられたのでは?
・備考
ビニールカバーの剥がし痕あり(大してひどくはないが、前の見返しと遊び紙に剥げあり)。糸綴じの穴あり。後ろの遊び紙が見返しに張り付け。
平成27年7月6・7日 ページ作成・執筆