松下哲也「ママの殺人日記」(1966年頃/220円)

「学校からの帰り道、奈美子は物思いに沈んでいた。
 最近、母親の奈美子に対する様子がおかしい…。

 奈美子の住む邸は、高台の一角にある赤い屋根の家。
 家族は、出張でほとんど家にいない父親に、美しい母親、大学の寮に入っている兄の明、そして、奈美子の四人。

 奈美子の母親だが、連日、奈美子が母親にコーヒーを入れる度に、「コーヒーをいれさせてもらった礼」に土下座を強要する。
 母親はこれを「礼儀」というが、ある日、母親に来客があった際に、奈美子がコーヒーを持っていった時、客の目前で土下座をしてしまい、母親は狼狽。
 奈美子を部屋から連れ出すが、何故こういうことをしなければならないのかと聞かれ、黙り込んでしまう。

 その日から、この不可解な「礼儀」を強いられることはなかったものの、今度は奈美子は二階の物置に監禁されてしまう。
 泣けど喚けど出してはもらえず、三日後…
 外から「ギギギギギギ」という音が憔悴した奈美子の耳に届く。
 それは母親が持っているテープレコーダーから流れるものだった。
 母親は食事と水を与える代わりに、ベッドの上の人形を「原型が残らないよう」こわしてほしいと言う。
 飢えと乾きに耐えかね、死に物狂いで奈美子は人形をボロボロにする。
 ようやく食事と水にありつけ、手掴みで貪り喰う奈美子。
 また翌日から同じことが繰り返されるが、しばらく経つと終りになる。
 奈美子には母親の気持ちがわからずに悩むのだった。

 奈美子の兄、明が大学の寮から久々に帰省してくる。
 彼はベッドのやつれた奈美子の姿を見て驚き、母親にどうしてこんなにやつれたのか尋ねる。
 母親は明を別の部屋に連れて行き、何やら話す。
「ママ そんなこと!!」と明は絶句し、隣室の奈美子を暗い目で見やるのだった。

 翌日、母親は奈美子に重大な話をする。
 実は、奈美子には三歳年上のみどりという姉がいた。
 ある夏の初め、みどりの顔色が透き通って見えるようになり、髪が次第に灰色になっていった。
 どんな治療も薬も役に立たずに、髪は真っ白になり、みどりは二階から飛び降りてしまったのだった。
 そして、母親は、奈美子にも姉、みどりと同じ症状が見えると告げる。
 悲嘆に暮れる奈美子。
 ドアの外で立ち聞きをする明。

 自分の髪が白くなることに怯える奈美子。
 母親はそういう奈美子の姿を観察しては、日記帳に何やら記している。
 そして、一夜で奈美子の髪は総白髪になってしまう。
 そんな奈美子の姿を影から目を光らせて、何やら書き込み続けるのだった。

 白髪になった奈美子は、母親が自分にとって継母なのではと考える。
 そう考えると、今までの冷酷な仕打ちや自分を少しも心配していない態度の説明がつく。
 そして、母親に向かい、「私の母親に逢わせて」と言い、母親がなだめようと近づいても、ヒステリックに助けを求めながら、逃げようとするのだった。

 このことがあってから、母親は奈美子に優しく接し、徐々に奈美子が母親を恐れて逃げるようなことはなくなる。
 が、ある日、母親は奈美子と共に車で出かけていた。
 母親の目には以前の冷たい光が戻っている。
 そして、
「我が子を実験台として使用することは、惨いことかもしれないが……
 どうしてもこのチャンスに博士の資格をとりたいの
 奈美子には悪いけど
 ………
 これからの実験をプラスし、論文を提出し、この機会に何としても念願の博士の資格をとりたい」
 と母親は考える。
 そう、母親は「人間に於ける暗示と条件反射の関連性の人体実験」という研究をしており、我が娘をモルモットにしていたのだった。

 その時、奈美子が急に蒼ざめ、悲鳴を上げる。
「き…聞こえる あの音……恐ろしい音……」
 車のトランクの中で、テープレコーダーが、監禁実験の時の「ギギギギギギ」という音を立てている。
 奈美子は血走った目で「人形」を捜し求めると、「人形」は隣にハンドルを握っていた。
「人形」に掴みかかる奈美子。
p  車は道路を外れ、斜面を転がり落ちる。
 火のついた車から出てくる奈美子の目の前に、車から投げ出された「人形」があった。
 奈美子は近くにあった大き目の石を持ち、「人形」の頭部に投げ落とす。
 こわれた「人形」の横で、奈美子は白髪を振り乱して笑う。
 テープレコーダーのテープがなくなり、「ギギギギギギ」という音を立てなくなった。
 すると、奈美子は「ママー」と叫び、自分の本当の「母親」を求めて、彼方に走り去っていくのだった。
 おしまい」

 ジャンルとしては、「サイコ・ホラー」になると思うのですが、「心理学の実験のために自分の娘を狂気に追い込む母親」と言う設定がなかなか斬新…なのか……?
(実際問題、そんなことをする奴なんていないとは思うのですが、自分の子供を衰弱死させたり、虐待死させたりする親のニュースが後を絶たないところを見ると、ありえないことでもないかも…。)
 まあ、突っ込みどころ満載のストーリーはさて置いて、このマンガの最大の見所は結末の「人形」破壊にあるのです。?
 これ程、カタルシスのあるラストはなかなかお目にかかれません。何回読んでも、素晴らしい!!
 肝心なところだけですが、画像を載せておきますので、ご鑑賞下さいませ。

・備考
 状態悪し。I文庫仕様(カバー裏に新聞紙等による補修。表紙を本体から取り外し、本体を何らかの厚紙で覆っている)。糸綴じあり。カバー痛み(色褪せに加え、ボロボロ)。

平成26年12月下旬
平成27年10月1日 ページ作成

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