森由岐子「奇怪な恋の物語」(220円)
「江戸時代、海に囲まれた城があった。
近習、相川小四郎は、天が二物も三物も与えてしまったのか、美貌と優れた才能に恵まれていた。
周囲の女性陣からはモテモテであったが、小四郎は微塵も興味を示さない。
好奇心旺盛な殿様は様々な女性を小四郎に引き合わせてみるが、全く効果なし。
殿様は小四郎が魔性のものにでもたぶらかされているのではないかと考え、小四郎の下男である多吉に小四郎の様子を探らせる。
その夜更け、多吉は小四郎が父親の研究室に入っていくのを目撃する。(注1)
小四郎の亡き父親は魚の研究をしており、人間は魚に戻ることができると信じていた。(進化論がなかった時代に凄すぎるぜ!!)
研究所の中には地下への秘密の通路があり、それは海に通じていた。
小四郎の後をつけた多吉は、小四郎が類なき美貌の人魚、磨汝子(まなこ)と密会していることを知る。
秘密を知った多吉は、殿様に報告すると小四郎を脅し、金をゆすり取るようになる。
小四郎は、磨汝子と結ばれるために、魚に戻る薬の開発を急ぐのだが…」
唐沢俊一&ソルボンヌK子「森由岐子の世界」(白夜書房)にて紹介された作品です。
この本で力を入れて解説されておりますので、それ以上、私としては大して書くことはありません。
ただ、ちょっとだけ付け加えたいことがあるのです。
推測ですが、この作品は、楳図かずお先生の「半魚人」(1965年頃の「少年マガジン」)の影響下にありましょう。
ただし、単なる二番せんじではなく、「人間から魚になる」という主題に「人魚との恋愛」というロマンチックな要素を加えて、ファンタジー色の強い怪奇ものであります。
もちろん、森由岐子先生お得意の「純愛」もストーリーにきっちり組み込まれております。
とは言え、基本は怪奇マンガですので、半魚人と化した小四郎の描写にはかなりグロテスク。
左の画像を見て、現在、「コワい!!」と思う人がどれだけいるかはわかりませんが、当時、メインの読者だった女の子は震え上がったのではないでしょうか?
(楳図かずお先生の「半魚人」は「少年マガジン」での掲載ですから、女の子達の目にはあまり触れてなかったのでは?と考えてます。)
ちなみに、右の画像の、半魚人となった小四郎の雄姿(後ろ姿)、私は素直にカッコいいと思いました。(前姿が気になりますが、想像を巡らすのはやめておきましょう。)
ともあれ、個人的には、楳図かずお先生の「半魚人」の影響を受けながらも、様々な要素をうまくアレンジして、「半魚人」ものに新境地を開いた佳作だと思っております。
唯一気になるのは、人魚の磨汝子についての説明(生い立ちや小四郎との馴れ初め等。セリフも皆無なのは声帯がないから?)が全くない点です。
人魚の描写も増やしたら、もっと深みが増したかもしれませんが、下手すると、余計にボロが出るだけなので、「美貌」だけを強調したのは賢明だったのかもしれません。
・注1
この研究室、ガラスの水槽に魚を入れておりますが、江戸時代にガラス張りの水槽ってあったのかしら?
余談ですが、荒俣宏氏の「目玉と脳の大冒険」(ちくま文庫)によると、本来、魚は水槽の上から見て観賞するものであったが、ガラス張りの水槽ができるようになってから、横から観賞することができるようになり、それが水族館に発展した旨、書かれていたように記憶しております。
ただし、只今、手もとにその本がなく、確認せずに書いてますので、もしも間違っていたら、ごめんなさい。
・備考
状態、悪し。読むのに支障はないものの、とにかくボロい!! ビニールカバー貼り付け、また、そのための歪みや痛みあり。糸綴じあり。背表紙色褪せ。全体的に水濡れの痕あり。また、湿気によるものか本体歪んで、ベッコンベッコンする。pp34・35、湯呑でも本に置いたのか、円形のシミあり。pp41・42、引っかき傷あり。その他、シミ・汚れ、全体にわたってあり。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕と鉛筆の書き込みあり。
2016年8月24日 ページ作成・執筆