渡千枝「わたしが消えた!」(1988年9月13日第1刷発行)

 収録作品
・「わたしが消えた!」(「別冊フレンド」1987年7月号)
「高校受験の日。
 中学三年生の吉井美幸は憂鬱で仕方がない。
 両親に強く言われ、H高にしたものの、実際はかなりハードルが高かった。
 バスの中で、彼女は「いっそ違う世界に行きたい」と強く願う。
 すると、トンネルの中で強い衝撃を受け、彼女の意識は暗黒へと突き落とされる。
 目が覚めると、彼女は一人トンネルの中にいた。
 腕時計を見ると、試験の開始時間間近で、彼女はH高へと急ぐ。
 しかし、H高では、彼女は受験票があるのに、願書が提出されていないと追い出される。
 慌てて中学校へ行くと、先生達は誰も彼女のことを知らない。
 しかも、MPが現れ、彼女は家へと連れていかれる。
 母親は彼女を娘と認めてくれるが、本当は、美幸をMP達から守るためで、美幸はずっと昔に亡くなっていた。
 家を追い出された美幸を、隣の勝が匿ってくれる。
 彼から話を聞くうちに、意外な事実が次々と明らかになるのだが…」

・「閉じ込められた絶叫」(「別冊フレンド」1987年9月号)
「兄(名前なし)、さとみ、みのりの兄妹は海水浴に行った帰り、近道を通って、地滑りにあう。
 土砂降りの山中で車が使えず、途方に暮れるが、向こうに家が見える。
 兄は電話を借りに家に行くが、いつまで待っても帰ってこない。
 さとみとみのりが向かうと、そこは本格的な洋館であった。
 そこの舞踏室では西洋人らしき若者達が仮装パーティーに興じていた。
 彼らの一人がさとみ達に気づき、話しかけてくる。
 しかし、兄はここには来ていないと言われ、入れ違いになったかと急いで車に戻るが、やはり兄の姿はない。
 仕方なく、さとみとみのりは一晩、この邸で過ごすこととなる。
 みのりは皆と意気投合して、パーティーへと参加するが、生来勘の鋭いさとみは彼らを「不快」に感じ、拒否反応を起こす。
 トキオという青年にさとみは寝室に案内してもらい、そこで今までの違和感に気づくのだが…。
 この館の主人、モルティフェルの正体とは…?」

・「顔のない少年」(「別冊フレンド」1987年11月号)
「美波が小学生の頃、母親は子連れの男性と結婚する。
 男性の娘は史子という名で、美波と同い年。
 以来、母親は史子ばかりをかまい、美波は孤独に苛まされる。
 時が経ち、美波は不良の仲間となり、家族の厄介者。
 彼女がが安らぐのはバイクをとばしている時だけであった。
 ある日の夜明け近く、彼女のバイクは対向車に衝突する。
 意識を取り戻すと、丹沢の山中の病院のベッドの上であった。
 右目は角膜に傷を負い、右足は複雑骨折という重傷で、入院することとなる。
 この病院はVIP専門の病院で、一般の外来の患者は受け付けていなかった。
 そのため、彼女以外の患者は邦彦という少年だけで、美波は彼と友達になる。
 彼の話によると、彼は生まれてからずっとこの病院から外に出たことはなかった。
 どうやら直射日光を浴びることができない身体らしい。
 海を見たことがないという彼に、美波は、足が治ったら、バイクで海に連れて行くと約束するのだが…」

・「午前二時のデッドゾーン」(1987年「別冊フレンド増刊 ミステリー特別号」)
「白蘭女子学園女子寮。
 小早川理絵(勝気なお嬢様)、森山小夜子(ボーイッシュな少女)、須藤真弓(内気で臆病な少女)の三人は、ルームメイトの山崎瑛子をいじめて、自殺に追い込む。
 三日後、転入生の御園鈴子が三人の部屋に入ることとなるが、彼女は山崎瑛子とそっくりであった。
 鈴子も瑛子と同じく、いじめの標的になるかと真弓は心配するが、彼女は瑛子と違い、明るく積極的で、皆の人気者となる。
 また、彼女は三人とも溶け込み、平穏な寮生活を送る。
 ある夜、退屈な寮生活をボヤいていると、鈴子がある提案をする。
 それは夜中の二時、古い鏡の前で、目を閉じたまま、「鏡よ 鏡よ わたしの死に顔を見せておくれ」と二回唱え、目を開けると、自分の死に顔が見えるというまじないであった。
 四人は地下室に行き、理絵、小夜子、真弓はそのまじないを実行する。
 三人が鏡に見たものとは…?
 そして、御園鈴子の正体は…?」

 知名度は低いと思いますが、良作揃いの単行本です。
 ストーリーは特に奇をてらったものではないものの、堅実な構成と、たまに捻じ込まれる強烈なショック描写で読ませます。
 特に、「閉じ込められた絶叫」「午前二時のデッドゾーン」は当時の少女達に深いトラウマを与えたのではないでしょうか?
 「顔のない少年」はじんわりと心にしみ入る名編です。

2022年5月7日 ページ作成・執筆

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