冬目景「文車館来訪記」(2004年11月22日第一刷発行)
・「第一話 幻影の街」
「大正の初めの頃、東京の町の裏にある、物の怪(付喪神多め)の棲む町。
町には文車写真館があり、主人はここで唯一の人間であるヨウ(文筆を兼業)。
そして、彼と共に暮らすのは碧い瞳の生き人形のイアン(明治26年(1893年)製造)。
写真店はひどく暇であったが、たまにお客さんが来る。
彼らの願いは『思い出』を撮ってもらうことであった…」
・「第二話 異国よりの麗人」
「ある日、写真館を異国人が訪れる。
彼女は長い銀髪に真っ赤な牡丹(?)をあしらえた純白のチャイナドレスを着ていた。
彼女はある女性の写真を願う。
20年前、ある女性が日本の軍人と共に日本に渡ってくる。
女性は身一つで、持っていたのは母の形見の白磁(?)の花瓶のみ。
彼女は野原でつんだ花を花瓶にいけ、その前で故郷の歌を歌う。
しかし、やがて女性は歌を歌わなくなり、泣いてばかりの毎日が続く。
そして、ある日、彼女は花瓶を骨董屋に売り、花瓶は様々な人の手を渡るが…」
・「第三話 思い出の彼方」
「ある日、写真館を人間の女性が訪れる。
彼女は澪という若い女性で、ヨウにとって姉のような存在であった。
彼女は東北の分校に教師として赴任する前に、彼に会っておきたかったという。
いろいろと話をするうちに、彼女は彼が変わっていないことを知り、安心する。
来た記念に彼女は写真を撮っていくのだが…」
・「第四話 蝙蝠少女」
「ある日、イアンは町の住民に頼みごとをされる。
町中で高級傘の化身である娘が自分は捨てられたのではないと騒いでおり、ヨウに彼女を持ち主に届けてほしいという。
ヨウと蝙蝠傘少女は出かけるが、持ち主は引越ししており、隣人も行き先は知らなかった。
蝙蝠傘少女は自分は捨てられたと悲嘆に暮れるが、所詮、傘は消耗品と立ち直る。
しばらくの間、彼女は文車写真館にいつくが…」
・「第五話 永遠の空白」
「ヨウが締め切りのため、今日は写真店はお休み。
この機会にイアンは人間の街に出て、古書店で読書をする。
彼女の読んでいる本は作者の死のため、絶筆になっていたが、どこからか「そんなの無意味よ」と声がする。
横を見ると、赤い表紙の日記帳が目に入る。
それは誰かの日記帳で、これも途中で終わっていた。
イアンが日記帳を戻すと、彼女の横に赤い着物の女性が…」
・「第六話 欠けた記憶」
「少年は香水瓶の栓の彫像であった。
彼は持ち主の金髪の女性を捜していたが、記憶が曖昧で、文車写真館で写真を撮ってもらっても肝心の顔が写っていない。
あの日、彼女は彼をバッグに入れ、故郷に向かう船に乗ったというのだが…」
・「第七話 始まりと終わり」
「ある日、金髪の西洋人形が文車写真館に写真を撮りに来る。
彼女は別の人形になる前に、今の容姿を普通の写真に残そうとしていたのであった。
イアンはその人形と話をして、「私たちがうまれた所」があることを知る。
西洋人形に案内され、イアンが訪ねたのは、テイラーの老人であった。
彼は人形からは「マスター」と呼ばれ、人間そっくりな人形を「人の心を癒やすために造」っていた。
イアンは自分が明治28年(注1)に両国で作られ、ヨウの祖父に買われたと思っていたが、自分には祖父の記憶がないことに気付く。
彼女は鏡の前に立ち、自分で自分を写すことで自分の過去を明らかにしようとする。
過去を知った彼女の決断は…?」
・「あとさき 写真館の先客」
「ある日、イアンが写真館の店番をしていると、ツインの三つ編みの娘がいつの間にか入ってくる。
イアンが写真を勧めても、娘には人間に捨てられた過去があり、写真にしたいような思いではないと一蹴する。
彼女はこの写真館ができる前はここを寝ぐらにしていたと言い、やけにこの場所にこだわっていた。
イアンは一緒に住むよう提案するが、娘の正体は…?」
冬目景先生による繊細かつイメージ豊かなファンタジーです。
2000年5月に「百景」という画集が初出とのことです。
新作の「あとさき 写真館の先客」以外はオールカラーで、淡く瑞々しい色使いにため息がでます。
ホラー色は皆無ではありますが、ほっとしたい時、心を和ませたいような時には最適な一冊ではないでしょうか?
心の奥の方からほわほわと優しい気持ちになれます。
もっとこの世界に浸りたいのですが、続編は出ているのでしょうか?
・注1
第一話では明治26年に造られたことになってますが、作者のミス?
2025年6月9日 ページ作成・執筆