井口かのん「彼はだんだん血にそまる」(1997年9月12日第1刷発行)

 収録作品

・「彼はだんだん血にそまる」(1997年「別冊フレンド5月号増刊 サスペンス&ホラー」)
「葉月の彼氏、雨宮龍一は天真爛漫な性格。
 絵画の才能がある彼は、有名校の美術科に奇跡的に受かった後、髪を赤色に染め、自画像の髪も赤く塗り直す。
 しかし、その日の晩、彼は、雨でスリップした車に轢かれ、救急車の中で亡くなる。
 葉月は別の学校に行き、二年過ぎるが、いまだに彼が死んだという実感が持てない。
 ある日、バイト先で、母校の後輩から、美術室に飾られた、彼の自画像が「呪われた絵」と噂されていることを知る。
 彼との思い出を汚された気になり、葉月は美術室からその絵を持ち帰るのだが…」

・「世の中狂ってるよ」
「政府の「イジメ問題解決委員会」はイジメの根絶は不可能と判断し、イジメを必要悪として認める方針を打ち出す。
 その代わり、学校では「イジメが正しくマナーを保っておこなわれるよう カリキュラムに組みこんで指導していく」ことになる。
 「イジメ」は科目となり、授業では「イジメのやりかた実践講座」で「良いイジメ」が教えられる。
 以来、今までいじめっ子だった池辺は、いじめられっ子だった山口にやり返されることが増え、ストレスは溜まる一方。
 世間で空前の「イジメ・ブーム」が起き、皆が気軽に「イジメ」を楽しむ中、彼女は吐き気を抱えて生きるようになり…」

・「呪文」(1996年「月刊少女フレンド9月号増刊 サスペンス&ホラー」)
「田辺ちずるは、桜井彩乃と知り合う。
 きっかけは、彩乃が、仲良しだった岩田友紀に絶交された現場を見かけたことであった。
 ちずるが彩乃を慰めるうちに、彼女が片想いをしている幼馴染の慎二のことを彩乃に知られてしまう。
 ちずるの直感通り、彩乃はその素直さと可愛さで、二人の仲に押し入ってくる。
 ちずるは彩乃に、慎二が好きだと釘を刺すのだが、やがて、彩乃の本性を知ることに…」

・「レクイエム」(1996年「月刊少女フレンド4月号増刊 サスペンス&ホラー」)
「片山洋子の跳び下り自殺。
 彼女は、自殺する理由なんかない、明るくて活発ないい子であった。
 クラスメートや先生からの信頼も厚く、カッコイイ彼氏もいて、いじめられていたなんてとんでもない。
 彼女の葬式に参列した後、彼女と特に仲の良かったひかる、葵、メグは、彼女と最後に会った時のことを告白する。
 洋子の死の真相とは…?」

 「あなたが怖い…」と並ぶ傑作単行本だと思います。
 どの作品も素晴らしいですが、正しい「イジメ」を描いた「世の中狂ってるよ」が、鋭い洞察と社会風刺で、深く考えさせられるものがあります。
 また、「呪文」は、「あなたが怖い…」「ジェラシー」(両方とも、「あなたが怖い…」収録)と並ぶ、サイアクな読後感で、要注意です!!
 「レクイエム」は、似たようなタイプの話があったような気がしますが、今、思い出せません。

2021年8月12日 ページ作成・執筆

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