犬木加奈子「ヘル・マザー」(1990年4月13日第1刷・1993年5月31日第3刷発行)

 収録作品

・「ヘル・マザー」(「平成2年発行 少女フレンド1月15日号増刊 サスペンス&ホラー特集号」所載 )
「お屋敷に住むお嬢様の姉妹、エリカとリリカのもとに新しい母親がやって来る。
 新しい母親は美しく、母親を待望していた姉妹は幸せだった。
 しかし、父親が事故で急死して以来、態度が急変。
 母親は姉妹を屋根裏に閉じ込め、謎めいた客が十三人、屋敷に居座ることとなる。
 真っ暗な屋根裏部屋で、腐った食事しか与えられず、姉妹は衰弱していくが、ある時、ドアに鍵がかかっていなかった。
 妹のリリカは食べ物を探しに部屋を出たところ、母親の部屋で恐ろしい光景を目にする。
 母親が持参した大鏡に映っている母親とその客の姿は、恐ろしい魔女とその僕(しもべ)のモンスターであった。
 魔女達はリリカに襲いかかるが、そこへ姉のエリカが駆けつけ、遂には、魔女はリリカによって背後から心臓を燭台で刺し貫かれる。
 魔女やその使徒の身体は腐れ落ち、消滅。
 屋敷は火事になり、姉妹は救助されるものの、言うことは誰にも信じてもらえなかった。
 その後、姉妹は心優しい伯母に引き取られる。
 このことは姉妹の心に深い傷を残し、リリカは失語症となっていた。
 だが、魔女は滅びてなく、鏡の中からリリカをつけ狙う。
 魔女と対決するため、伯母からもらった魔除けを手に、姉妹は屋敷へと戻る決意をする…」
 直球の「ゲテモノ」怪奇マンガですが、犬木加奈子先生にはこういうマンガはありそうで意外と少ないかも…。
 「ゲテゲテ」極まりないモンスターに、槍一本で立ち向かう姉の雄姿に感動(?)します。

・「ハウス」(注1)(「平成元年発行 少女フレンド8月15日号増刊 サスペンス&ホラー特集号」所載 )
「第一話 人形の家」
「チビで内気なイジメられっ子のアキラ。
 彼には、他人の家を覗いて回るという、おかしな癖があった。
 彼のつくった家の工作をきっかけに、ルリ子は彼に興味を抱く。
 親切に接するうちに、アキラはルリ子に心を開き、彼の秘密を明かす。
 それは、自宅の地下室にある、精緻を極めた、町の模型であった。
 更に本物に近づけるために、ルリ子はアキラに協力することになるのだが…」
「第二話 壁の中の少女」
「一年前、弟が事故で死んでから、日に日に衰弱していく少女。
 心配した両親は、静養すべく田舎の屋敷へと移るが、少女は両親が自分を殺そうとしていると信じ込んでいた。
 ある日、少女は寝室の壁の向こうから気配を感じる。
 そこには徐々に穴があき始め、穴からは助けを求める少女の声がする。
 壁の向こうの少女の話を聞くと、自分と同じ境遇であった…」
「第三話 最後の晩さん」
「ある実業家の娘は、人の大切なものを金を使って、奪い取るのが快感。
 雑誌で見たワイン農園王の豪邸を父にねだって、相手を破産させ、自分のものにする。
 その豪邸を一目見ようと、訪れると、そこに住んでいた家族が「最後の晩さん」を過ごす最中であった…」

・「鏡よ鏡」(「平成元年発行 少女フレンド第9号」所載 )
「学校で一二を争う美女の木崎姫子と白野雪子。
 二人は仲が良さそうに見えたが、実際は、犬猿の仲。
 お互いに監視し合って、出し抜かれないように、一緒にいるだけなのであった。
 ある日、木崎姫子はアンティーク店で綺麗な鏡を目にする。
 店主の老婆は、この鏡は白雪姫の鏡であったが、呪いをかけられ、美しい女の顔を喰う鏡になってしまったと言う。
 鏡を譲ってもらった姫子は、ライバルの雪子を潰すために、一計を案じる…」
 犬木加奈子先生には「鏡」をテーマにした、優れた作品が幾つもありますが、これもその一つであります。
 「人の顔を喰う鏡」という発想に、少女のドロドロしたライバル心が絡むという設定だけで、心が躍ります。

・「こわい夢」(「平成元年発行 少女フレンド第6号」所載 )
「森の中で人喰い鬼に追われ、捕まるところで目が覚める悪夢に少女は毎晩悩まされていた。
 小学校からの帰り道、友達に悪夢のことを話していると、ある男が少女にその夢を売ってくれるよう話しかけてくる…」
 こういうショート・ストーリー…好きです…。加えて、当時の絵柄が味わい深いです。

・「襖」(「昭和63年発行 フレッシュフレンド秋の号」所載)
「ある団地の母子家庭。(内容より母子家庭と推測。)
 三人目の女の子が産まれてから、母親はヒステリー気味。
 ある夜、長女は、押し入れの襖の隙間に化け物を目にする。
 翌朝、赤ん坊が布団で窒息死して、長女は押し入れの中の化け物の仕業だと確信するのだが…」
 現代にも通じる内容ではないでしょうか?
 作中で母親の顔が不明瞭に描かれている理由を考えると、背筋が寒くなります。

・注1
 「家には顔がある」ということをよく言われます。
 この言葉は、「人喰い屋敷」をテーマにした奇妙な短編、日影丈吉「ひこばえ」がもとなんでしょうか?
 それとも、前々からそのようなことを言われていたのでしょうか?
 ちょっぴり気になってます。

2016年8月27日 ページ作成・執筆

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