有田景「幸せ占い館」(1997年7月13日発行)
収録作品
・「幸せ占い館」
「遊園地、ソラヤマランドを訪れた高校生カップル、野山みかと小田圭吾。
二人が入った「幸せ占い館」の女占い師は凄腕で、どんなことも的中させる。
女占い師は、みかに彼への想いが強すぎるとアドバイスするが、はぶてた彼女は占い館をとび出してしまう。
数日後、みかは圭吾から別れ話を切り出される。
彼は子供っぽい、みかに心底うんざりしていたのであった。
悲嘆に暮れる、みかは再び女占い師のもとを訪れる。
そこで、女占い師は、みかの一生分の幸せが詰まった風船を彼に握らすことができれば、よりを戻すことができると告げるのだが…」
・「幸せ占い館 ―目が怖い!ー」
「内気で、視線恐怖症の石野和代。
遊園地に誘われ、憧れの砂原と仲良しになるチャンスなのに、トロトロしている間に皆とはぐれてしまう。
だが、偶然出会った女占い師に、砂原も彼女に惚れていると教えられ、勇気百倍。
早速、砂原のもとに向かうが、ライバルの坂本にメンチを切られ、あっさり占い館に逃げ帰る。
人の視線が怖いと訴える和代に、女占い師は、彼を手に入れるまでの間の約束で、視線が怖くならない暗示をかけるのだが…」
・「幸せ占い館 ―愛の無限地獄―」
「絹代の彼氏、真琴は、女性に美を見出すと、愛さずにはいられない、因業な野郎。(諸星あたるを果てしなくクズにした感じ。しかも、イケメンなので始末が悪い。)
絹代が妊娠中なのに、別な女に手を出して、ひょいひょい留守にする「だメンズ」ではあったが、彼と一緒にいる間は夢見心地でいられるために、離れられない。
彼は彼女のことを愛していることは確かだが、他の女と寝ていることを思うと、絹代は嫉妬に苛まされる。
思い余った彼女は、ひょんなことから知り合った女占い師に、彼が彼女だけを愛するよう願う。
一方の真琴は、彼が惚れる相手が次々と、その美点をぶち壊してから、自殺していくのだった…」
・「転身の一夜」
「新人女優の堀井は、繁華街の路地裏から出て来た先輩女優、平野を待ち伏せる。
実は、堀井は、劇団の脚本家かつ平野の恋人だった原田を籠絡(ろうらく)し、平野から主役の座も恋人も奪ったのであった。
先程まで路地裏で平野と原田が痴話喧嘩をしていたことを知らぬふりをしながら、堀井は平野と一緒に歩く。
その時、二人は見知らぬ少年から仮装パーティに誘われる。
だが、二人は仮装をしていないので、堀井は「化け物どもに捕らえられた(…)お姫さま」、平野は「殺人鬼」の役で参加することとなる。
入り口で、二人は頭にロウソクを結わえ付けられ、これは、相手を動揺させて、頭上のロウソクの火を消すのを競うゲームであるとの説明を受ける。
そして、会場に入った二人であったが、中は異形の者で溢れていた…」
・「王座交代」
「並野奈美は剽軽な少女。
ある日、学校で猿の物真似をしていたところを、「校内のボス猿」である不良(注1)、佐藤の逆鱗に触れてしまう。
バカにされていると思い込んだ佐藤は、クラス全体で奈美に対する壮絶ないじめを行う。
孤立無援の奈美が取った対抗策は、心から猿になりきることであった。
クラスメート達は徐々に奈美に感化されていき…」
・「盗作」
「美術部の相田星子は、同じクラスの青井冬馬に興味を抱く。
内気な彼はクラスで孤立していたが、卓越した画力を持っていた。
星子は冬馬を強引に美術部に入部させるが、彼の描く絵はセンセーションを巻き起こす。
彼の絵は、実物と見まがうほどにリアルに描かれていた。
しかし、彼の絵のモデルになった生徒達はことごとく異変に見舞われていく…」
・「笑って仲直り」
「天然入っている少女、みどりと、いじめっ子の鹿子は仲良し。
二人は闇鍋を企画するが、何故か、みどりは、いじめられっ子の米子を強制的に誘う。
結局、三人で闇鍋パーティをすることとなるが、さて、闇鍋の中身は…?」
平成における最大の怪奇マンガ・ブームであった1990年代。
伊藤潤二先生や犬木加奈子先生、御茶漬海苔先生といった大物は言うに及ばず、様々な漫画家さん達が登場・活躍しておりました。
その中には、一風変わった、個性的な漫画家さんもおりましたが、有田景先生もそういった個性派の一人でありましょう。
目にした限りでは、突拍子のないアイデアに、予想の付かない展開と「奇想」が冴えた作品が多いように思います。
この単行本は初期の作品を収録されたもので、よく練られていない印象を受ける作品もありますが、有田景先生の個性はきっちり発揮されております。
私の一番のお気に入りは「転身の一夜」。
有田景先生以外の誰がこんな妙な作品を描けるでありましょうか?!
また、「盗作」は、アドルフォ・ビオイ=カサーレス「モレルの発明」(注2
有田景先生には単行本未収録の作品がゴロゴロしているようですので、まとめて読めるようになったら、幸せです。(リバイバルしないかな〜)
・注1
「ビー・バップ・ハイスクール」なんかが流行ってた頃から私は思っていたのですが、あいつら、何故、勉強する気がないのに学校に行ってるんだろう?
親の金で学校に行って、勉強しなかったり、トラブル起こしたりって、いくら格好つけたって、ダメじゃん。
学校なんかクソ喰らえ、その代わり、中卒で肉体労働やってます、といった方が遥かに筋が通っていると私は思う。
・注2
アドルフォ・ビオイ=カサーレスはアルゼンチンの作家で、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの年少の友人でもあります。
「モレルの発明」(書肆風の薔薇/1990年9月30日発行)は、ボルヘスに『完璧な小説』と讃えられたことでも有名です。
非常に読みやすく、内容も抜群に面白いので、一読を激しく推薦します。
ただ、本が若干入手しにくいと思いますので、復刻が切に望まれます。
2018年1月3日 ページ作成・執筆
2020年7月21日 加筆訂正