つじいもとこ「地獄変 ―復活の神曲―」(1995年8月9日第一刷発行)
・「地獄変 ―復活の神曲―」(1993年「サスペリア」)
「成田発ロサンゼルス行きの飛行機。
考古学者の卵、来栖甲斐は、飛行機のエンジン音に奇妙な音が混ざっていることに気付く。
隣席の並河とびら(中学二年生)もその音に気付いており、どうも歌のようだと話す。
音が大きくなったので、とびらが耳を澄ますと、「ラ・ムー」「ラ・リュー」という歌詞が断片的に聴き取れる。
その頃、飛行機は操縦がきかなくなり、オーロラの光の中に突っ込む。
衝撃の後、甲斐が意識を取り戻すと、飛行機の中に奇妙な衣装の男達が入ってくる。
彼らはとびらを「巫女(ラ・リュー)」と呼び、何故か甲斐の名前(カイ)を知っていた。
飛行機の外では民衆が集まり、巫女に救いを求めている。
とびらは外に連れ出されるが、甲斐は来ないよう言われる。
甲斐が置いて行かれそうになった時、彼が付けていた石のペンダントが光り、彼は飛行機から飛び降りて、無事に着地する。
二人は仮神殿にまで運ばれ、責任者のサロイ神官から説明を受ける。
ここは大昔に沈没したと言われているムー大陸の太陽帝国(ラ・ムー)であった。
太陽帝国は火山の噴火のため、危機に瀕しており、民衆は巫女が太陽神(ラ・ムー)を呼び戻してくれると信じていた。
たった一人、ミュリンという巫女が噴火を収めることができたが、その巫女も力尽き、死んでいた。
とびらはミュリンとそっくりで、ラ・ムーの者達は彼女に巫女としての働きを求める。
また、甲斐は、ミュリンの許嫁のカイと混同され、とびらと引き離されそうになる。
甲斐はとびらを連れて、その場から逃げ出すのだが…」
・「夏の視線」(「ホラーハウス 88年8月号」掲載)
「親友の佐山幸子が通り魔に惨殺された。
夏子とエリは、同級の男子学生、木村と共に犯人を捜そうと決意する。
実は、エリには透視力と念動力があり、この力を捜査に役立てようとする。
疑わしいのは、路線バスの痴漢常習者なのだが…。」
・「鼓動 ―トクントクン―」(1988年「ホラーハウス」)
「山岡悟(11歳)の家では、半年前、老人ホームから祖父が家に移ってから、ピリピリしていた。
母親は介護でヒステリックになっており、悟を祖父に近づけようとしない。
ある日、祖父が倒れ、寝たきりとなる。
母親が葬式用に出していた写真を見ると、その中に、赤ん坊の悟を抱いた祖父の写真があり、その素敵な笑顔に悟は驚きを覚える。
更に、隣家の飼い犬が処分場に送られたと聞いて、悟はショックを受ける。
隣家の飼い犬は、小さい頃は可愛かったのに、成長してからは吠え声も大きく、邪魔もの扱いされていた。
母親の「やっかい払い」という言葉から、悟は、母親が祖父を「やっかい払い」したいと考えると疑う。
彼は母親が祖父に何かしないか心配するのだが…」
・「人魚のいる水族館」(「ホラーハウス 87年2月号増刊」掲載)
「生物部の実習で訪れた水族館で、律子とマーちゃん(名前不明)は、水槽の中に小さな人魚を見る。
翌日、二人で水槽を見張ると、やはり小さな人魚が泳いでいた。
律子と友人は、人魚を捕まえようと、閉館後の水族館に忍び込む。
二人は水族館の職員に追われるが、人魚を狙っているのは二人だけではなかった…」
・「螺旋夢」(「ホラーハウス 88年5月号」掲載)
「川辺早苗の恋人、三ツ矢は魔術やオカルトに興味を持っていた。
彼は、深夜零時に合わせ鏡の奥から悪魔がやってくるという噂の真相を確かめようと、ある夜、友人達と試してみる。
すると、鏡の奥から蚤のような小さな虫がぴょんぴょん跳ねながら、こちらにやって来る。
鏡の外に出た、その虫のようなものを捕まえようとするが、それは三ツ矢の目の中に飛び込んでしまう。
何の実害もなかったものの、三ツ矢と早苗が別れる時に、その虫らしきものが三ツ矢の目から早苗の目に飛び移る。
大したことはなく、いつの間にか忘れたものの、二人の身体には異変が起こりつつあった…」
ホラーとは言い難いのですが、「鼓動 ―トクントクン―」は隠れた佳品です。
子供の眼を通して、家族の中の愛憎、生と死が繊細に描かれ、深く考えさせられます。
2022年3月11日 ページ作成・執筆