松本洋子「黒の迷宮」
(1984年11月6日第1刷・1988年9月20日第18刷発行)

 収録作品

・「黒の迷宮」(「なかよし」1984年8月・9月号掲載)
「1984年。ある雨の夜。
 金髪の少女が車に轢かれ、記憶を失う。
 車の持ち主はジェイムズ=アンダーソンという資産家で、少女は夫妻のに引き取られる。
 アンダーソン夫妻は昨年の夏、一人娘のミリアムを亡くしており、妻のアデルは少女にミリアムの面影を見出し、溺愛。
 ただ、一月経っても、少女の捜索願いは出ておらず、また、彼女の記憶も戻らないままであった。
 そこで、アンダーソン夫妻は、アデルの姉の住むソールズベリ館へ少女を連れて行く。
 ソールズベリ館はマサチューセッツの田舎町にあるが、少女はその名を知っていた。
 館に着き、主人のメリッサがホールに出て来た時、少女を見て、心臓の発作を起こす。
 アンダーソン夫妻の遠縁のジニー=オブライエンは、メリッサが少女について何か知っていると推測。
 ジニーはアンダーソン夫妻の養子になることを狙っており、少女を追い出そうと画策していた。
 その夜、アデルは急死する。
 ジニーと彼女の恋人、エディはアデルの寝室を捜し、ソールズベリ家の先祖の遺言状を見つける。
 遺言状には、彼の娘、アーロネッサは魔女で、毒殺したが、悪魔の力で墓場から蘇ったと書かれ、アーロネッサが復讐に来ると警告していた。
 その遺言状から、エディはあるアイデアがひらめき、少女を陥れようとするのだが…。
 一方、少女は、ソールズベリ家の使用人の息子、ラルフと親しくなっていく。
 少女の正体は…?
 そして、彼女が記憶を取り戻す時…」

・「もういくつねると」(「なかよし」1984年1月号掲載)
「委員長の沖本美登里、大西早苗、(名字不明)京子、(名字不明)牧子は仲良しグループ。
 冬のある日、大西早苗が塾帰りに何者かに刺殺される。
 翌日、クラスに工藤志保という女子生徒が転入してきて、美登里達はショックを受ける。
 六年前、美登里のグループは、工藤志保という少女を仲間に入れるからと、町はずれの空き家に呼び出す。
 そこで、仲間になる儀式をしようとしたところ、空き家に雷が落ち、倒壊。
 美登里達は志保を置き去りにしたまま、逃げ出し、以来、志保は行方不明であった。
 まさかあの工藤志保であるはずがないと考えるが、志保は六年前、この町に住んでいたという。
 更に、美登里達の周囲では六年前の事件をにおわせるような出来事が次々と起こる。
 美登里のグループのメンバーが一人また一人と殺されていくが、工藤志保の幽霊の仕業なのであろうか…?」

・「13番目の星座」(「なかよしデラックス」1984年2月号掲載)
「リズは恋人のポールから急に別れ話を切り出される。
 ポールは、リズの親友のサリーと愛し合うようになっていた。
 リズは、彼女のもとを去ろうとするポールの後頭部を花瓶で殴って殺害。
 途方に暮れた彼女が外に出ると、町中をポールが歩いていた。
 彼が生きていることにホッとして、彼の後について行くと…」

・「壁の中」(「なかよしデラックス」1984年2月号掲載)
「トニー少年は、お隣のエレーヌに恋をしていた。
 エレーヌは春の陽だまりのように暖かく、素敵な女性であった。
 しかし、夫のファレルは浮気性かつ乱暴者で、彼女はしょっちゅう泣かされていた。
 ある夜、トニーはファレルが庭に何かを埋めているのを目撃する。
 翌日、お隣の家から、エレーヌの姿が消える。
 ファレルは、彼女の母親が病気で、田舎の実家に帰ったと説明するが、エレーヌには身寄りがないはずだった。
 トニーはファレルが彼女を殺したと考えるのだが…」

・「青い闇の天使」(「なかよしデラックス」1984年2月号掲載)
「週末、マリィは母親のいる別荘に来るよう誘われる。
 彼女の母親は身体が弱く、田舎に住んでいた。
 別荘に着いた時、「でておいき」という声が聞こえ、南はしの部屋に人影が見える。
 使用人のアンヌに、南はしの部屋のことを話すと、彼女は顔色を変える。
 その夜、鏡の中に、マリィにそっくりだが、顔の左半分が焼けただれた少女が現れ、ここから出て行くよう警告する。
 更に、夜更け、半ば放心状態の母親がアンジュという人物を捜していた。
 マリィはこの家に隠し事があると思い、南はしの部屋に行ってみるのだが…」

 どの作品も良い出来ですが、中でも「黒の迷宮」は出色で、オカルト・ホラーの傑作です。
 構成やストーリー展開が巧みなだけでなく、合間合間に挿入される残酷描写(木の枝に頭部が突き刺さった犬の死骸、生首切断、等々)が実にヘビーで感嘆させられます。
 松本洋子先生は、トレス疑惑のせいでいまだ正当な評価がなされておりませんが、埋もれさすには惜しい作品の一つです。
 あと、「壁の中」のほろ苦いラストは実に味わい深いです。

2022年2月15・16日 ページ作成・執筆

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