流水凜子「失われた旋律」(1990年10月13日第一刷発行)

 収録作品

・「失われた旋律」
「沢口亜梨子は県立富士丘高校に通う少女。
 彼女は隣に住む瀬尾という中年男性に想いを寄せていた。
 瀬尾は刑事で、十年前に高広という息子が行方不明となり、その一年後に妻が心労で他界、以来、独身で過ごしていた。
 ある日、亜梨子の通う高校ではダストシュートからゴミが引っ張り出され、散乱されられるという事件が起こる。
 ダストシュートは塞がれるも、翌日、またも同じ事件が発生。
 しかも、飼育動物が皆、喰い殺されていた。
 その夜、学校中の出入り口は封鎖されており、どうやら内部の人間の仕業らしい。
 この事件が、この高校で行方不明となった高広の事件とつながる時…」

・「鳥の神殿」
「万理子は最近「鳥の夢」をよく見る。
 どこか標高の高い山中の空に大きな鳥が幾つも飛んでいるという夢で、この夢を見ると、不安で仕方がなくなる。
 その夢の中で、彼女は「クマーリィ」と呼ばれる18歳の「生き女神」であった。
 彼女は神託によって選ばれた日から、神殿から一歩も出られない生活を送る。
 ある日、戦勝の祈?をする時、彼女はバハルカム将軍に一目惚れをする。
 しかし、彼は妹のティハルの婚約者であった。
 彼女は妹に嫉妬し、また、初潮が来れば、クマーリィの座を追われ、どこにも居場所はないことに絶望する。
 彼女は神に妹の不幸を祈るが、その願いはバハルカムの戦死という結果を生む。
 バハルカムの死体が鳥葬にされることを知った彼女は神殿を脱け出し…。
 過去の呪いが現在に甦る時…」

・「闇冥の韻」
「平安時代末期、山深き狭生(さおう)の国の黒津荘。
 豊雄は黒津荘を治める豪族、香央(かさだ)の息子。
 彼が八歳の時、二つ年下の衣十良(いそら)と大の仲良しであった。
 衣十良は帝の血筋を引く公卿、雀部の娘で、誇り高くわがままだが、天真爛漫で明るい少女。
 衣十良の父親は逆臣の汚名を着せられ、この地に流されていた。
 彼はいつか都に帰る日を夢見ており、地方豪族の香央氏を蔑み、身分違いを理由に、衣十良と豊雄の交際を禁ずる。
 豊雄は納得できず、雀部の屋敷に向かう。
 そこでは湯治に来ていた都人を招いて、宴が催されていた。
 衣十良は父親に客達の歓待を頼まれていたが、そこで目にしたのは客達の侮蔑と下心のみ。
 豊雄は塀の上から彼女に呼びかけるも、衣十良はこの場の自分を恥ずかしく思い、彼を無視する。
 彼女の態度に衝撃を受け、豊雄は強く偉くなることを決意する。
 血のにじむような努力の末、彼は武士として数多くの軍功を立て、十年後には昇殿し、院より冠位をいただく。
 故郷に凱旋した豊雄に雀部の家からの婚儀の話が伝えられる。
 雀部の家は結局、恩赦されることはなく、今はすっかり零落していた。
 豊雄は衣十良と十年ぶりに再会するのだが…。
 様々なすれ違いがやがて大きな悲劇を生むこととなる…」

 今も活躍中の流水凜子先生が1980年代後半に描いた怪奇短編を三編収録しております。
 「失われた旋律」はラリー・コーエンの「悪魔の赤ちゃん」の影響ありかも…。(ラスト付近なんかもろです。)
 途中で主人公が入れ替わるせいか、ちょっとすっきりしない構成です。(あと、「旋律」を「ララバイ」と読ませるのも無理があるような…。)
 「鳥の神殿」は作者が「印度大好き人間」なだけあって、かなり凝ってます…が、内容は陰鬱です…。
 「闇冥の韻」はこの単行本での個人的ベスト。
 作者は「もちっと大事に描いてあげられたら」と後悔していて、実際、終盤あたりで力尽きている印象がありますが、いや、かなり良い作品ですよ、これ!!
 巻末のあとがきも力が入っていて、作者の温かいお人柄が窺えます。

2023年8月20・23日 ページ作成・執筆

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