山岸凉子「押し入れ」(1998年4月13日第1刷・9月10日第3刷発行)

 収録作品

・「夜の馬」(「Amie」1998年3月号)
「集中治療室で、一人の男が苦悶していた。
 心電図モニターの反応が止まった時、男の身体から霊体が抜け出す。
 そして、快さを覚えながら、彼は井戸の底に降下していく。
 井戸の底には、横穴があり、鬼が二人いたが、彼を追っ払う。
 他には、国民服姿の中年の男性とバイクに乗った若い男女。
 中年の男性(松井石根がモデル?)は観音さまの絵を見せ、今も祈っていると話す。
 また、バイクの青年の胸にはナイフが刺さっており、女を取り合った時に受けたものらしい。
 青年は男を「人を何人もいや何百人も殺した〇〇」と言って、走り去る。
 その時、男の脳裏に、厚生省に抗議するデモ隊やクリスマシン(血友病の治療薬)が思い浮かぶ。
 気が付くと、真っ白な空間に彼はいた。
 顔のない人達がリアカーを押してくるが、荷台の幌(?)の中には死体らしきものが乗っていた。
 「乗れ」という声が聞こえるが、男は拒否する。
 彼が目を覚ますと、そこは…」

・「メディア」(「Amie」1997年3月号)
「神奈川県J短期大学。
 二年の有村ひとみは長身でボーイッシュな娘さん。
 彼女は自宅から一時間かけて短大に通うが、夏休みに入る頃から、母親を負担に感じ始める。
 母親は子供っぽさの残る女性で、夫の浮気が原因で別居していた。
 彼女は娘のひとみの生活にいちいち干渉し、無視されると、感情的になる。
 だが、ひとみは、友人達との付き合い、出版社でのバイト、将来の夢を優先するため、母親から次第に距離を置いていく。
 母親の嘆きに心を痛めながらも、ひとみは遂に一人立ちできる日が来るのだが…」

・「押し入れ」(「Amie」1997年12月号)
「美内すずえ先生のアシスタントのAさんに起きた、怖い話。
 Aさんと姉は中央線N駅にあるアパートに住んでいた。
 Aさんは徹夜の朝帰りが多く、OLの姉とは顔を合わさない生活が続く。
 二人の寝室には押し入れがあったが、ちゃんと閉めても、いつの間にか若干開いてしまう。
 姉は押し入れの中に誰かいると怯えているようなのだが…。
 押し入れの中にいるものとは…?」

・「雨女」(「眠れぬ夜の奇妙な話」1994年新春之巻)
「成城の家でベッドに横たわる女性。
 彼女は眠ってはおらず、夫の数良が彼女の金を探しているのに聞き耳を立てていた。
 財産目当てだと知ってはいたものの、さすがに他に女をつくられると傷つかざるを得ない。
 しかも、その場には、彼が前に同棲していた女までも現れ、彼女はショックを受ける。
 気が付くと、彼女は森の中でカラスに囲まれていた。
 雨が冷たく、彼女は立とうとした時、袋に入っているような奇妙な感覚に襲われる。
 それは一瞬だけのことで、立ち上がった彼女は道路に出て、道を行くダンプに泊ってくれるよう頼む。
 だが、ダンプは知らん顔をして通り過ぎていき、たまに止まっても、彼女を乗せず、急発進してしまう。
 仕方なく、道を歩き始めるが、気が付くと、成城の家のベッドにいた。
 彼女は服を着たままシャワーを浴びるが、そこに数良が女性を連れてやって来る。
 数良は女性を親切にもてなし、彼女は悲しさに身が引き裂かれそう。
 すると、次に、彼女は病院の廊下にいた。
 数良は涙を流し、マスコミの連中に取り囲まれている。
 どうやら彼の妻が植物人間になるらしい。
 彼女は自分の身体があると思い、治療室に入るのだが…」

・「マイブーム」(「Amie」1997年9月号)
「三十数年ぶりにクラシックバレエを始めた山岸先生のコミック・エッセイ」

 山岸凉子・印のホラー風作品が四編、収録されております。
 「夜の馬」は「薬害エイズ事件」(主人公のモデルについてはわからず)、「雨女」は「ロス疑惑」で有名な三浦和義がモデルです。
 また、「メディア」はギリシア神話に出てくるメディアのエピソードを下敷きにしてはおりますが、それよりも「毒親」がテーマです。
 単行本の中で最も素晴らしいのは、個人的には「雨女」。
 典型的な山岸風幽霊譚で、女幽霊の意識の揺らぎを淡々と描写しております。
 男に対する妄念と化した女幽霊達が連なって男の首筋に絡みついている描写は非常に気持ちが悪いです。
 「夜の馬」も似たような作風ですが、やはり、男よりも女の幽霊が主人公の方が説得力が違います。

2022年7月7・11日 ページ作成・執筆

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