杉本啓子「リタ!だれを待つ」(1984年8月14日第一刷発行)

 収録作品

・「黒い血のコレクター」(1974年「週刊少女フレンド」)
「ニール=スラッターはピアノの調律師。
 霧深き冬のある日、彼は、仕事でレイ=ウィンダムという人物を訪れる。
 その住まいは山奥の古城で、本人は車椅子の美少年であった。
 仕事を終え、ニールが辞去しようとした時、レイは妹、マーゴットを紹介する。
 マーゴットは絶世の美少女で、自分の左手を何枚もスケッチしていた。
 マーゴットはニールと会った瞬間から、彼に惹かれた様子を見せる。
 その夜、邸に泊まったニールは彼女から絵のモデルになってくれるよう頼まれる。
 マーゴットは人間の身体で最も美しいところは「手」だと話すのだが…」

・「リタ!だれを待つ」(1976年「週刊少女フレンド」)
「ジェシカの家で、いとこのリタが一緒に暮らすようになる。
 リタは、ジェシカの母親の弟の娘で、両親を相次いで亡くしていた。
 ジェシカの母親によると、リタの母親は「どこか異常なところ」があり、両親は人里離れた山の中で暮らしていたという。
 ジェシカは、ずっと一人ぼっちだったリタに同情し、彼女を友人達に紹介する。
 しかし、リタにはある秘密があった。
 それは、彼女を傷つけようとする者に皆、死をもたらすという「呪われた力」であった。
 人の中で生きていけないと嘆くリタに、ジェシカは、傷ついても生きていくことの大切さを説く。
 リタは強くなろうと決意するが、ロック・ショーに行った時、惨劇が起きる…」

・「黒髪の章」(1975年「週刊少女フレンド」)
「柏木沙代子は、有名な日本画家、篠田芳華の隠し子と言われ、容貌は彼にそっくりであった。
 沙代子が小さい頃、彼女の母親は、夫に芳華との不義を責められる。
 沙代子の母親は最期まで、沙代子が実の子であると主張するが、夫は彼女を斬殺。
 母親がかばってくれたお陰で、沙代子の命は助かったものの、背中と胸に無惨な傷痕が残る。
 父親は母親を殺害後、切腹して果て、沙代子は親戚の家に預けられる。
 年頃になった頃、沙代子は、鏡面や水面といったものに、死ぬ間際の母親の顔を視るようになる。
 母親は、沙代子が実の子であると繰り返していた。
 肺病で余命いくばくもないと悟った沙代子は、真相を確かめるべく、篠田芳華の屋敷を訪ねるのだが…」

・「黒い牙の記録」(1975年「増刊少女フレンド」12月号)
「ライザは、幼い頃から、鏡に映る自分の横に狼を見る。
 それは年を取るにつれて、はっきりと形を取っていくが、彼女にしか見えなかった。
 彼女が年頃になった時、両親が飛行機事故で亡くなる。
 幸い、弟のマークだけが助かるものの、彼は精神薄弱であった。
 彼女の遺産に貪欲な親戚達が群がり、彼女は絶縁する代わりに、好きなものを与える。
 しかし、最低限の財産を残すという約束は破られ、彼女は家屋敷までも奪われる。
 憎しみに満たされた彼女が鏡から狼を解き放つ時…」

・「闇になく声」(1973「増刊少女フレンド」12月15日号)
「重病で床に臥せる、資産家のオーリンガム氏。
 彼のもとに、シャロン=ウェブスターという娘が現れる。
 オーリンガム氏は、彼が資産家の娘、ミア=オーリンガムと結婚するために、アンという女性を捨てるが、シャロンは彼女と氏の間にできた子供であった。
 シャロンは母が亡くなった後、父親を訪ねて来たと話し、オーリンガム氏は彼女を歓迎する。
 オーリンガム氏とアンの娘、モリ―は、自分の母親が父親に愛されずに亡くなったのは、アンのせいだと考え、シャロンを憎む。
 対するシャロンはたった二人の姉妹ではないかと訴えるが、シャロンは彼女に対する不信感を拭うことができない。
 しかし、モリ―がこのことを父親に告げても、父親はシャロンの肩を持ち、彼女の言葉に耳を貸さない。
 父親の病状は回復するものの、何者かに絞殺される。
 おばのメリンダは、彼の寝室に残されていたスカーフがモリ―のものであることに気付き、強請を考えるのだが…」

 幻想的な作風で知られる、杉本啓子先生。
 キャリアは1964年からと古く、1966年頃から「フレンド」で長らく活躍してきました。
 1970年代には怪奇マンガを幾つか発表しておりますが、この単行本は当時の「ホラー/サスペンス」色の強いものを集めております。
 特に、「黒い血のコレクター」と「リタ!だれを待つ」は残酷描写がキツい作品で、幻想的な作風のイメージしかない人は驚くと思います。(とは言え、今見ると、大したことはありませんが…)
 また、「リタ!だれを待つ」は超能力少女を扱っており、ちゃんと「超能力少女は暴走する法則」に則っていて、嬉しいところ。
 ラストのロック・ショーでの惨劇は、「キャリー」(原作小説の方)の影響があると推測しております。(注1)

 本書での最高傑作は「黒髪の章」で、これは夢野久作の「押絵の奇蹟」(注2)をアレンジしたものです。
 でも、単なる二番煎じでなく、アレンジが巧みで、かつ、杉本先生の資質に合っていたのでしょうか、筆の冴えが違います。
 名編でありましょう。

・注1
 作品では、会場にてドアが急に締まり、手首が切断される描写がありますが、「キャリー」の原作小説でも、ドアで指が切断される叙述があったように記憶しております。
 杉本先生はスティーブン・キングの原作を読んでいたのでしょうか? それとも、偶然の一致?

・注2
 「押絵の奇蹟」は、大和和紀先生唯一の長編怪奇マンガ「影のイゾルデ」にも影響を与えていると思います。

2020年9月24日 ページ作成・執筆

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