曽祢まさこ「幻想組曲 ―ばらによせて―」(1987年4月6日第1刷発行)

 収録作品

・「幻想組曲 ―ばらによせて―」
「第一話 マリーナ」
 庭の花木の世話が「命」の少年、ジョゼ。
 ある日、マリーナという美しい少女が彼の庭に迷い込む。
 彼女を一目見て、ジョゼは庭に「淡いピンクのばら」が足りないことに気付く。
 マリーナはクラスメートのティトのいとこで、隣のクラスに転入する。
 彼女はジョゼに関心を持っているようだが、ジョゼは庭に植えた花木のことで頭がいっぱい。
 彼が植えた、ピンクのばらは華麗に花開くが、彼にとってはマリーナの面影の足元にも及ばない。
 そこで、鉢植えにして、一輪だけを咲かせることにする。
 丹精した甲斐もあり、バラは花開く時を迎えるが…」
「第二話 危険なつぼみ」
 そのバラの下で、五人の子供達が「秘密ごっこ」をする。
 それは、自分だけの重要な秘密を打ち明けて、その秘密は絶対守るというものであった。
 四人がそれぞれの秘密を話し、エルシーの番が来る。
 彼女の秘密とは、父親を殺したことであった…」
「第三話 白ばら伝説」
 昔、夕焼けの向こうにある王国。
 その城の庭園の中央に、月光と見まがうような美しい白ばらの樹があった。
 王様にとって白ばらの樹は宝物で、何よりも大切にする。
 秋も深まったある日、森に狩りに出た王様は、ブランシュという美しい娘と出会う。
 王様はブランシュを妃に迎え、彼女も王様にならって白ばらの樹を心を込めて、世話する。
 やがて二人の間には王子が産まれるのだが、ある日…」
「第四話 ばら館の夜」
 クリスは、結婚予定のゲイルと、山中の別荘を訪れる。
 別荘の至るところにバラが植えられており、館は見事な蔓バラが屋根にまで達していた。
 別荘には使用人夫婦以外に、ゲイルの前妻であるスザナとの間の息子、アドリアンがいた。
 スザナは病弱で、ゲイルは仕事に忙しく、ろくろく構わないうちに、この別荘で八年前に死去。
 アドリアンはスザナ似で、父親のゲイルを嫌っていた。
 また、クリスに対しても、アドリアンは心を決して開こうとせず、不敵な笑みを浮かべるだけであった。
 別荘に滞在し始めてから、クリスの周囲ではおかしなことが続発。
 そんな中、ゲイルが急な仕事で別荘を離れる。
 クリスは今までの不審な出来事はアドリアンの仕業と気づき、彼に詰め寄る。
 すると、アドリアンはようやくその本性を表す。
 彼は、母親を悲しませるやつは許さないと言い、クリスに家から出ていくよう勧める。
 クリスは拒否して、家に残るが、その夜…」
「第五話 騎士と青いばら」
 ビオランテ姫に求愛する騎士エルネスト。
 姫の求めとあらば、東の国に銀のばらを、南の国に金のばらを取りに行く。
 艱難辛苦を乗り越えて、エルネストは銀のばら、金のばらを入手する。
 しかし、姫はそれらのばらよりも美しいと言われる、北の国の青いばらを望む。
 エルネストは北の国に向かうが、青いばらは二匹の竜に守られていた…」

・「風の墓標」
「高原にあるホテルに一家で避暑に来た少年、リロイ。(1983年「なかよし」)
 そこで彼は、クラスメートのアルビン=バーンズと出会う。
 ホテルの近くには、彼の祖父の邸宅があった。
 アルビン=バーンズは学校の問題児で、リロイは快く思っていなかったが、彼の屈託のない態度に誘われ、彼の秘密小屋へと足を運ぶ。
 その小屋でリロイはバーンズの複雑な家庭事情や、彼の孤独な心のうちを垣間見る。
 二人で霧深い渓谷を見に行ってから、リロイがホテルに帰ろうとすると、バーンズは彼を家にしつこく誘う。
 あまりにしつこいので、リロイがバーンズを振り払うと、バーンズは倒れた拍子に、後頭部を岩にぶつけ、動かなくなる。
 リロイは慌ててその場を逃げるが、ふとバーンズが悪戯をしている可能性に気づき、戻るが、やはり彼は死んでいた。
 そ知らぬ振りをしてリロイはホテルに戻るが、良心の呵責に苦しめられることになる…」

 「幻想組曲 ―ばらによせて―」は、バラをテーマにしたオムニバスです。
 どれも粒よりだとは思いますが、「第四話 ばら館の夜」が出色でありましょうか。
 サイコ・サスペンスに幽霊譚を絡ませ、ラストはB級ホラーで締めてくれるという作品で、私のツボにめっちゃはまりました。
 また、「第五話 騎士と青いばら」は、全体的に「メルヘン/ファンタジー」といった雰囲気の中、「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」(もしくは「デビルスピーク」)張りの「心臓グワシ」描写が唐突に出てきて、読者だった少女達にはショックだったのではないでしょうか?(もうこの頃には、この手の残酷描写は珍しくなかったかもしれませんが…。)

 「幻想組曲 ―ばらによせて―」は、コミックス・ミステリーにて、「風の墓標」を「少女たちは午後…」に替えて、再録されております。

2017年8月18日 ページ作成・執筆

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