高階良子「理科室殺人事件」(1985年3月6日第1刷・8月31日第3刷発行)

 収録作品

・「理科室殺人事件」(「なかよしデラックス」昭和59年7月号〜8月号所載)
「大島学園高等学校に転入してきた有本晃二。
 彼は大島麻代と知り合うが、彼女はその学園の理事長の娘であった。
 理事長は動物の剥製を集める趣味があり、その手法はかなり強引かつ非道なものであり、麻代はそんな父親を激しく嫌う。
 麻代は晃二に惹かれながらも、理事長の娘であることを知られたくなく、彼と距離を置こうとする。
 だが、ある日の下校時間、晃二にそのことが知られ、折悪く、パンダを仕入れた代金を請求するペットブローカーの女性もその場に現れる。
 麻代がいたたまれず、走り去った時、理科室で爆発音が鳴る。
 皆が駆けつけると、理科室の前には取り乱す麻也の姿があり、中では、割れた薬品の瓶が異臭を発する中、理事長の死体が鷹の剥製を胸に倒れていた。
 理事長の死因は、後頭部を鈍器で殴打されたためで、彼に恨みを持つ者の犯行として捜査される。
 晃二は麻也を家に送るが、麻也の母親は夫が死んでも顔色一つ変えない。
 麻也の実の母親は亡くなっており、新しく迎えた母親は麻代とたったの五歳違いでしかなく、夫婦の間にも、母娘の間にも愛情は存在しなかった。
 継母は財産目当てであることを隠しもせず、父親のショックから回復していない麻也は彼女と反目する。
 ある雨の日、晃二が麻也を心配して彼女の家に向かうと、びしょ濡れになりながら、道を歩く麻也と出会う。
 麻也は継母と喧嘩をして、家をとび出してきたのであった。
 晃二が彼女を家に送ると、階段の下で、継母は頭から血を流して死んでいた。
 麻也は二件の殺人事件において現場の近くにいた者であり、また、動機もあることから、警察に第一容疑者とみなされる。
 晃二は麻也を救うために、二件の殺人事件を考察するのだが、この事件の「盲点」とは…?」

・「円の中の殺人事件」(「なかよしデラックス」昭和59年11月号〜12月号所載)
「私立藍園高等学校。
 野鳥愛好会は正式な部活として認められていないために、美術部室を間借りしていた。
 野鳥愛好会の部長は前生徒会長でイケメンの三年生、松浦俊。
 彼に憧れて、入部しようとした酒井響が、無断で望遠鏡であちこち覗いていると、偶然に殺人現場を目撃する。
 人物ははっきりせず、誰かが胸を刺され、噴出した血がミューシャ(本文ママ)の絵にかかる。
 驚いて、望遠鏡をひっくり返したために、殺人現場がどこかははわからない。
 響は、その場に現れた美術部の顧問、杉浦先生のこのことを報告するが、明日になればわかることと、あまり騒がないよう注意される。
 実際、翌日の新聞にはそのニュースは載らず、安堵した麻也が美術部を訪れると、憧れの松浦俊がいた。
 意外とフレンドリーな俊に響がときめいていると、そこに学園一の美女、永瀬弥生が現れる。
 響は、カップルと噂されている俊と弥生と共に帰宅することとなるが、彼らは互いに恋愛感情はないことを明言する。
 弥生は響に惹かれるものがあったのか、これをきっかけに、弥生は響に親しく接するようになる。
 響は俊と弥生のいる野鳥愛好会で楽しく過ごすが、ある日、不審な様子の杉浦先生を見かける。
 彼女が彼の後を追うと、学校の焼却炉で、血まみれのミューシャの絵を燃やすところであった。
 とっさに火の中に手を入れ、絵の火を消そうとしているところに、俊が駆けつける。
 同じく居合わせた弥生に医務室で火傷の手当てをしてもらった時、響は弥生に相談を持ち掛ける。
 夕方、弥生の部屋で、響は望遠鏡で見た殺人事件のことを話すのだが…。
 そして、起こる、第二、第三の殺人事件…。
 犯人は一体誰…?」

 高階良子先生のミステリーものは(私が読んだ限りでは)どれも水準が高く、今読んでも、充分観賞に耐えうるように思います。
 妙チクリンなトリックをムリヤリに捩じ込んで、辟易させるタイプと違い、高階良子先生のミステリーは「red herring(赤いニシン)」(注1)を巧みに用いた、ストーリー重視のものです。
 とは言っても、私は推理小説は好きな方ですが、「シャーロック・ホームズ」やアガサ・クリスティ、エラリー・クイーン、横溝正史等、メジャーな作家の作品を実はほとんど読んでませんので、どうのこうの講釈を垂れる資格はありません。
 ミステリーに詳しい方に一度検証していただきたいものです。

・注1
 「赤いニシン」とは、簡単に言うと、ミステリー作品において、読者の注意を真犯人から逸らす、騙しのテクニックのことです。
 私がこの言葉を知ったのは、松田道弘氏の「トリック専科」(教養文庫)でありました。
 もっと深くお知りになりたい方は、ウィキペディアの「燻製ニシンの虚偽」の記事を参考にしてください。

2017年7月18日 ページ作成・執筆

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