黒岩一平「怪奇死人往来」(190円)



「戦国時代末期の江戸(私がいくら日本史がダメでも、これはちょっと時代考証に無理があるかも…。)
 就寝中の乙羽新十郎は、枕元にいる青年に起こされる。
 青年は、夜叉神峠の舟岩に埋まっている、自分の死体を掘り出してくれるよう嘆願する。
 新十郎は青年に斬りかかるが、青年の姿は消えてしまう。
 しかし、青年は鏡の中にいて、自分の死体を掘り出すよう繰り返す。
 その鏡は、新十郎の師匠、山本勘助の形見としてもらったものであった。
 とにもかくにも確かめようと、新十郎は夜叉神峠に赴くと、青年の言う通り、舟石がある。
 青年の霊の導きもあり、青年の死体を掘り出すものの、新十郎は気味が悪くなり、逃げ帰る。
 一月後、その青年が新十郎のもとを訪ねてくる。
 青年は木村千之助という名で、三十年も前に死んだと言う。
 千之助が語るところによると、千之助と彼の父親、そして、新十郎の師匠であった山本勘助の三人は新火薬を開発していた。
 千之助の父親は我が子にのみ新火薬の製造法を伝授しようとしているのを知り、山本勘助は深い憎しみを抱く。
 長篠の戦いの後、織田信長のもとに新火薬を持ち込もうとしていたところ、山本勘助は新之助の父を殺害。
 そして、千之助も夜叉神峠に生き埋めにして殺すのであった。
 当の山本勘助は死んでしまったものの、千之助はどうにかして恨みを晴らそうと、新十郎に憑依するのであった…」

 まあまあ面白いです。話に大きな破綻はなく、画力も安定してます。
 特筆すべきは、千之助が鏡から出てくる描写でありましょうか。
「よっこいせ〜」といった感じでいいです。
 他にも鏡から顔だけ出している描写や、憑依しようと千之助の霊体が新十郎の身体に重なる描写なんかは、ちょっぴりシュールであります。
 ジャケットもいいですし、時代を考えますと、良作といって良いでしょう。

・備考
 カバー少し痛み、かつ、背表紙色褪せ。ビニールカバー剥がし痕、若干あり。巻末に貸本店のスタンプあり。後ろの袖に数字の書き込みあり。



平成27年11月30日(R.I.P.水木しげる先生) ページ作成・執筆

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