池川伸治「白面貴婦人」(200円/1963年頃)

「久枝のクラスに、信治という転校生が入ってくる。
 彼はちょっと変わっているのか、久枝を「美佐子さん」と呼び、付きまとう。
 その日、久枝の姉、久代は表で白色の仮面を拾う。
 久枝が面白半分にかぶってみると、仮面は顔にぴったり、しかも、仮面が顔を締め付けてくる。
 久枝は仮面を気味悪がるが、久代はその仮面をインテリアとして部屋に飾る。
 ところが、翌朝、拾った仮面が何故か血にまみれていた。
 更に、前夜、久代の同学年の佐代子が顔をメチャクチャにされる事件が起きていたのだった。
 久代は学校からの帰り道、仮面を拾った話を友人にしていたところ、信治にその話を聞かれてしまう。
 強引に、久代は信治にある屋敷に連れ込まれるが、そこの女主人は、拾った仮面と同じ、白い仮面を顔につけていた。
 そして、女主人は久代に、その仮面は数日前に盗まれたもので、返してほしいと頼む。
 久代は久枝にそのことを話すが、久枝は前とは一変、仮面に執着するようになっていた。
 その夜、久代は、久枝が雨が降るにもかかわらず、どこかへ出かけていたことを知る。
 しかも、そのことを全く記憶していないのであった。
 妹がおかしくなったのも仮面のせいと考えた久代であったが、久枝の持っていた仮面は行方不明になってしまう。
 仮面はどこに…? そして、仮面に秘められた、呪われた過去とは…?」

 白い仮面をつけた女性のイメージは、やはり「顔のない眼」からの影響でありましょう。
 しかし、この作品には、もう一つ、面白いエピソードがあるのです。
 作品の途中に「一寸休憩」というコーナーが挿入されておりまして、そこで池川伸治先生の体験談が記されております。

 友人の楳図かずお先生のところへ遊びに行った池川先生は、楳図先生お手製の仮面を二つ見せてもらいました。
 一つはグロテスクなお化けの仮面、もう一つはきれいな白面。(この白面がこの作品のインスピレーションになったとのことです。)
 それに触発されて、池川先生も自分の顔に合わせて、白面を新聞紙で作ってみました。
 あまりによくできたので、同居していた松下哲也先生や宮本光先生を驚かせようと、その仮面をかぶって、布団で寝たふりをしていたのです。
 が、ついウトウトしてしまい、そのうちに熟睡。
 ふと目が覚めると、顔中、ひどく痛み、鏡で見ると、顔中にぶつぶつができておりました。
 仮面の呪いか?!と慄くものの、翌日、医者に行くと、仮面をつくる時に使ったノリの中の防腐剤にかぶれたのではないかと言われましたとさ。

 と、まあ、他愛のない(けど、どこかほんわかする)話なのではありますが、戦後の漫画成長期における漫画家どうしの交友関係が窺えて、非常に興味深かったです。
 あと、この作品の編集に関わっている加藤一彦氏は、実はモンキー・パンチ先生らしいです。(注1)
 なかなか凄い面子ではないですか…。

・注1
 宏文堂の貸本マンガでは、編集者として名前がよく出てきます。
 また、加東一彦の名で漫画も描いております。
 とは言え、私はこのあたりの正確な知識を持ち合わせておりませんので、より詳しい方の検証を待ちたいと思います。

・備考
 ビニールカバー貼り付け、また、それによる本体カバーの歪みあり。pp97〜101、ひどいシミあり。前の遊び紙、シミあり。



2016年7月22日 ページ作成・執筆

貸本・宏文堂・リストに戻る

貸本ページに戻る

メインページに戻る