東田健児「鏡の中のもう一人の私」(170円/1962年4月20日発行)
「元亀(げんき)年間(1570〜1573年)。信濃の国、深志ヶ山のふもと(注1)。
瀞(しずか)は、行方不明の母を探して、深志ヶ山に踏み込む。
疲れ果てて、大木の根本で眠り込むが、その木の枝に母親の死体が横たわっていた。
しかし、確認しようとしたところを、良元という盗賊にさらわれ、彼の棲家に連れ去られる。
その棲家とは、百年前は、堤中納言の息女、瀞姫の館であった。
館は荒れ果て、住人は、良元と、流れ者らしき老婆の二人だけ。
この老婆は頭がおかしく、鏡を見つめては、自分があたかも若いように独り言ばかり言っている。
更に、この館に、逃亡中の盗賊、多文治(注2)と志野が迷い込んで来る。
そして、鏡に溢れた、この屋敷で、呪われた夜が始まる…。
瀞姫の妄執とは…?」
意欲的な作品です。
が、話があっちに跳んだり、こっちに跳んだりで、内容を掴みにくいのが難点です。
もっとすっきりした構成にすれば、佳作になったと思うのですが…。
ただ、「人喰い鏡」(右端の画像を参照のこと)のインパクトは、半世紀経った今見ても、なかなかのものです。
惜しい作品です…。
・注1
長野県松本市の深志ヶ丘のこと?
・注2
最初は、「鷲丸」と呼ばれておりますが、作者の勘違い?
・備考
カバー痛みあり、また、貼り付け。糸綴じあり。遊び紙に注意書き。
2019年10月29日 ページ作成・執筆