黒田みのる「愛と霊の世界@ 陽が西から」(2016年11月15日第1刷発行)

 収録作品

・黒田みのる「この本を手にとってくれたみなさんへ」
・磯貝紗歩「生と死を描くみのる漫画」

・「輪廻遥かなりき」
「黒田みのる先生のもとへ相談に訪れる、若い女性。
 パワープロ(黒田先生率いる漫画のプロダクション)では、彼女をモデルに漫画をつくる。
 漫画の中で、麻美と名付けられた女性は、高校生の頃、友人達とハイキングに出かけた際、夕日を背にしたイケメンの青年に一目惚れにする。
 しかし、彼には恋人がおり、この時の敗北感は、彼女の心の奥深くに根付いてしまう。
 無気力と憂鬱から逃れられないまま、男と何度も別れてはコンプレックスを深め、時は過ぎる。
 ある時、黒田みのる先生の漫画を読んで、彼女は、これは前世に関係があるのかもしれないと思いつく。
 黒田みのる先生が話を聞いたところ、確かに「輪廻」が関係しているように見えるがが、何かが引っかかるものを感じる…」

・「大恋愛」
「悠子と等は恋人同士。
 恋に浮かれる悠子だが、鏡の向こうから、悠子の憑依霊が彼女に語りかける…」

・「風薫りて五月逝く」
「祐子はある日、町中で、夫の保が、綺麗な女性とデートしているところを目撃する。
 悲嘆に暮れる祐子であったが、程なくして、保は交通事故で急逝。
 妊娠中の祐子は中絶するかどうか悩みながらも、夫が生前に会っていた女性の正体を確かめようとするのだが…」

・「雲・流るる果てに」
「アメリカ合衆国から帰国後、聖子は、親戚のいる海辺の村を訪れる。
 この海から突き出ている乙女岩から、彼女の母は身を投げて亡くなった。
 聖子が乙女岩を浜辺から眺めると、彼女の母親の亡霊が再び岩のてっぺんから身を投げる。
 更に、見知らぬ男性の亡霊も現れ、母親の後を追うように岩から投身する。
 後で、親戚に聞くと、その男性は、彼女の父親であり、乙女岩から見える竹藪の中で首吊り自殺をしたのであった。
 母親の自殺の真相とは…?」

・「陽が西から昇るとも」(1991年「Cute増刊号 黒田みのる 愛と霊の世界Part2」(注1))
「車で海に転落する事故で、恋人の圭を亡くした由起。
 圭の生前、二人が、彼の父親のペンションに旅行に来た際に、ペンション近くの滝や川で、彼は何者かの声をしきりに聞いていた。
 由起は同じルートを辿り、彼の聞いた声を聞こうと耳を澄ますが、何も聞こえない。
 そうやって歩いていると、目を閉じた、都会風の女性が彼女の横を通り過ぎる。
 由起が訝っていると、大きな水音が聞こえ、女性の姿は急流のどこにも見えない。
 ペンションに帰ってから、由起は、居間に飾られている絵がどうにも気になる。
 圭の父親は、この絵は圭の母親が若い頃に描いたものと説明し、彼女について話し始める…」

・「黒田みのるの見えない世界 第一回 憑依霊について」
・黒田みのる「この本を手にとってくれたみなさんへ ありがとう」
・磯貝紗歩「愛することを描くみのる漫画」

 2016年になって、突如出版された本でして、レディース雑誌(恐らく「Cute増刊号 黒田みのる 愛と霊の世界」)に掲載された、単行本未掲載分をまとめたものです。
 黒田みのる先生は「オカルト・エロ漫画」のパイオニアでありますから、もちろん、レディース雑誌との相性は良く、井上真由美先生の流麗な絵も実に素晴らしい。
 そこにクセのありまくる教義が乱入してくるところが、黒田マンガの味なのですが、さすがに恐怖漫画雑誌ではないので、そこまで大胆(もしくは破天荒)ではなく、「愛」や「妊娠」にテーマを絞って、読者に合わせております。
 まあ、基本、「憑依霊」が全ての元凶なのですがね…。

 個人的には、この本の魅力は、黒田みのる先生の最近の写真や二十歳代の写真、心霊漫画を描き出した頃の思い出を綴った文章等の方が遥かに興味深かったです。
 1928年産まれの黒田みのる先生は今年で御年九十歳。
 もしもご健在なのであれば、一度、お話を伺いたいものです。

・注1
 この雑誌、作品の扉絵に作者の体験した恐怖談に関する枠があるのですが、そこに小さく作者の写真が載っております。
 井出知香恵先生や蕪木彩子先生の顔写真、私、初めて見ました。

2018年9月7日 ページ作成・執筆

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