五島慎太郎「謎のゆうれい船」(1974年10月31日発行)

「ヒロインのキャロルは赤ん坊の時に、孤児院に捨てられていた、天涯孤独の女の子。
 昔から、モンスターが現れる夢をよく見ておりました。
 学校に入り、お金持ちのお嬢様ナンシーとその腰巾着のアンナにいじめられますが、そういう時には、リチャードという青年がいつもかばってくれました。
 ナンシーはリチャードに気があったので、ますますキャロルに敵意を燃やします。
 そんな時、リチャードが友人たちとボートに出て、行方不明になるという事件が起こります。
 休暇に入り、ナンシーはキャロルをボートでのセイリングに誘います。
 何か魂胆を感じながらも、ボートの魅力に逆らえず、キャロルはナンシーとアンナと共に海に出ます。
 しかし、海の真っ只中で、キャロルは海に落とされてしまいます。
 このセイリングはキャロルに男をとられたナンシーの罠だったのでした。
 キャロルに巨大なサメが近づき、何度かかわしますが、キャロルが「もうだめだわ」とあきらめた瞬間、空模様が変わります。
 黒雲が立ちこめ、稲妻がサメを打ち殺します。
 強風によって、ボートは転覆。三人は遭難してしまいました。
 そこに、荒れ果てた帆船が姿を現します。
 タイトルで察しがつくと思いますが、これは幽霊船なのでした。
 キャロル達は幽霊船で数々に怪現象に襲われますが、先日遭難したリチャードと再会することができました。
 リチャードが言うには、この幽霊船は同じルートをぐるぐると回っているとのこと。
 そして、その行き先には、楽園のような島があるというのです。
 ぱっと見は単なる無人島にしか見えないのですが、奥に入ると、高い壁に囲まれた町があるのでした。
 町と言っても、古代建築風の尖塔の多い建物が多く、その中に近代的なレジャーランドがあったりします。
 この島は若い人間しかおらず、皆、古代ギリシア人のような白衣に身を包んでいます。
 そして、ここでは勉強も仕事もなく、好きな時に食べ、遊び、寝て暮らしていいところ。
 しかし、リチャードはそんな生活に不安を覚え、故郷へ帰ろうと幽霊船に乗り込んでいたのでした。
 島に着いた一行は、リチャードの友人達と合流し、その島での生活にすぐに馴染みます。
 それから毎日、天国のような島で楽しい生活を送っていましたが、ある夜、アンナが鬼のようなモンスターにさらわれるのをキャロルは目にします。
 翌日、アンナは行方不明となり、キャロルが鬼のようなモンスターのことを話しても、リチャード以外は誰も信じてくれません。
 リチャードだけは一度、そのモンスターを夜に見たことがあるのでした。
 そして、モンスター達は町の向こうの「禁断の丘」から来るらしいとのこと。
 その時、空から謎なガスが吹き付けられ、皆、気を失ってしまいます。
 キャロルが目を覚ました時、彼女は牢屋の中にいました。リチャード、ナンシーの二人も一緒です。
 悲鳴が聞こえ、見てみると、アンナがモンスターに追われていました。
 背中にモリを突き立てられ、息絶えるアンナ。
 その時、モンスターが牢屋の中の三人を見つめました。
 モンスターはキャロルを牢屋から引きずり出し、豪勢な部屋に連れていきます。
 で、ここで「魔王」様とご対面。
 実は、この魔王様は、キャロルの実の父親だったのです。
 しかし、「人間」の姿で産まれてきたキャロルは、モンスターから見れば、異形のもの。
 魔王様は妻を殺し、赤ん坊のキャロルを人間世界へと追放したのでありました。
 キャロルが幼い頃、よく見ていた夢とは、赤ん坊であった時に見た風景だったのでした。
 更に衝撃的な事実が明らかになります。
 実は、モンスター達は過去、地球の支配者で、「人間」はその家畜であり、食料であったのです。
 しかし、「人間」の中に指導者が生まれ、反乱が起こり、その際にモンスター達を「悪魔」と呼んだのでした。
 人間との戦いに敗れた「悪魔」たちは四次元空間をつくり、そこに住むことになったのです。
 自分の素性を知り、驚愕のあまり、魔王様の部屋を飛び出すキャロル。
 そんなキャロルの姿を見て、あの風貌に似合わず、瞳に涙を浮かべる魔王様なのでした。
 部屋を飛び出したキャロルは広大な屋敷を逃げ回ります。
 モンスターの衛兵に追われ、地下に逃げ込むのですが、そこは「人間」どもの処理場でした。
 次々と斧で首を切断されていく「人間」達。
 そこに、モンスターに引っ立てられていくリチャードの姿が!!
 キャロルはモンスターに体当たりして、リチャードを助け、残りの人間達とともに島から脱出しようとします。
 が、脱出できたのは、キャロルとリチャード、ナンシーの三人だけでした。
 三人は幽霊船に乗り込み、幽霊船についている補助ボートで大洋に乗り出します。
 しかし、ここで異変が!!
 リチャードが急に年をとり、お爺さんになってしまったのでした。
 詳しい説明がないので、よくはわからないのですが、どうやら四次元世界に入った人間は急激に年老いてしまうようなのです。
 老人になったリチャードは悲観し、ボートから海に身を投げます。
 後を追い、海に飛び込むキャロル。
 うろたえるナンシーのボートに巨大な波が襲い掛かります。
 海は荒れ狂い、三人を飲み込んでしまうのでした。
 後日、ナンシーは通りがかった船に救出されますが、老婆となった彼女の言葉を誰も真に受けませんでした。
 おしまい」

 幽霊船の話かと思いきや、後半、突如「首狩り農場 地獄の大豊作」になる不思議なマンガです。
 推測ですが、幽霊船の話と人間牧場の話をうまく絡めて、お得感を出すつもりだったのでありましょう。
 しかし、うまく噛み合ったとは言えず、個人的には、ギクシャクした印象を残す作品であります。
 まあ、そんなことよりも、個人的には、この作品のキモは「魔王様」のステキな面と思います。
(下の画像を参照のこと。右側の画像で、横顔も堪能してください。)


 ぶっちゃけ、ここまでマズい御面貌の魔王様って、他にいないのでは?
 作者の熱意は伝わってくるのですが、如何せん、描き込めば描き込むほど、奇怪さよりもビミョ〜さが際立つ始末。
 オリジナルな「魔王様」で勝負!!という心意気は買いたいのですが、故・石原豪人先生の描かれた絵を多少は参考にされた方が良かったかも…。
 でも、でもね、バカにするつもりは毛頭ないんです!!
 当時、このマンガを読んで、恐怖に慄いた子供(12歳以下)は大勢いたと思います。。(注1)
 その少年少女達は、このマンガを読む時でも、魔王様の描かれたページをうっかり開かないように、慎重にページを繰っていたかもしれません。
 音楽の時間に聴かされたシューベルト「魔王」で、この「魔王様」を思い出して、音楽室で一人、身震いしたかもしれません。
「魔王様」が夢に出てきて、夜中に冷や汗をびっしょりかいて、飛び起きた子もいることでしょう。
 凄いことではありませんか!!
 その少年少女が成長して、その「魔王様」を失笑することがあるにしても、「魔王様」に対する郷愁を忘れることはないでしょう。
 一時期とは言え、それが彼等の「リアル」だったのですから。

 ちなみに、このマンガ、ヒロインのキャロルよりも、トンガリまくりの脇役、ナンシーの方が絵的に見どころが多いです。
 個人的なお勧めは、p89、化け物に襲われたヒロインを「ちらっ!」と見て、「くるっ!」と見捨てるシーンです。
 もし、本書をお持ちの方は、この「間の取り方」を是非ともチェックしてくださいませ。

・注1
 巻末の読者コーナー「幽霊ポスト」からもこのことは窺えます。
 送られたイラストは、小器用なものはほとんどなく、ガキんちょ達が力いっぱいに描いたお化けのイラストばっかりです。
 いいじゃありませんか。
 私だって、ガキんちょの頃は、キン肉マンの悪魔超人や茶魔語なんかあれこれ創作しておりました。
 今から思えば、愚にもつかないものばかりでしたが、当時はいっぱしのクリエーター気取りであったのです…。

2012年4月29日 執筆
2016年1月16日 ページ作成・加筆訂正

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