日野日出志「地獄の子守唄」(1972年3月31日発行)
収録作品
・「蝶の家」
「海の見える高台に建つ、「蝶の家」と呼ばれるお屋敷。
そこには、熱病により精神薄弱かつ奇形になった少年と、その母親が住んでいた。
少年の父親は船長として世界中を回っており、帰宅するたびに、少年に世界中の珍しい蝶を持って帰る。
少年はただひたすらに蝶を愛し、部屋には土産物の蝶の標本が並び、また、蝶の幼虫や毛虫を放し飼いにしていた。
だが、父親の留守中に少年が熱病にかかって以来、家の中の空気も、母親の少年への態度も、重苦しく、冷たい。
そして、もう一人、少年に蝶を持ってくる男性がいた。
彼が来るたび、少年は理解できぬ憤りにかられてしまう。
その男性が母親と連れ立って出かけている間、少年は長い間、立ち入ったことのない母親の部屋に入る。
部屋に立ち込める母親の匂いに触れた時、少年の脳裏に過去の母親の思い出が蘇える。
その夜、少年は不思議な夢を見る…」
・「七色の毒蜘蛛」
「太平洋戦争の空襲の最中、少年をかばい、彼の父親は背中に大火傷を負う。
その時、少年は、父親の背中に真っ赤な色をした大きな蜘蛛の姿を見る。
敗戦を迎え、戦後の混乱の中で、そして、世の中が落ち着きを取り戻した後も、少年は、背中の蜘蛛が父親を責め苛む様を幾度と目にするのだった…」
・「白い世界」
「東北の雪深い僻村。
一軒家に住む少女と祖母。
出稼ぎに行った父親は行方知らずとなり、母親は遠くの町に水商売をしに出かけ、何日も留守にすることがしばしばであった。
それでも、心優しい少女は楽しく暮らしていたが、現実がその無垢な世界を圧し拉ぐ(おしひしぐ)時が来る…」
・「博士の地下室」
「人里離れた屋敷には、科学者と出産間近な妻が住んでいた。
科学者は日々ある研究に没頭していたが、妻には研究内容を教えようとしない。
彼のテーマは「美しい動物」を創造することであった。
しかし、実験の結果、できあがるのは醜い「かたわ」(注1)ばかり。
科学者は失敗した動物は下男に殺処分を命じていたが、下男は密かに奇形動物を集めていた。
そして、嵐の夜…」
・「泥人形」
「無数の煙突からカラフルな有害物質が際限なく吐き出される町。
空き地に、有害物質により奇形となった少年少女達が集まってくる。
彼らの目的は、大きな泥人形を作り上げることであった。
そして、有害物質を吸い込み、七色の原色に彩られた泥人形が動き出す…」
・「地獄の子守唄」
「怪奇と恐怖にとりつかれたまんが家、日野日出志。
本人自らが語る、呪われた生い立ちと、恐ろしい秘密とは…?」
怪奇マンガ史に残る、非常に重要な単行本ですが、実は、ひばり書房の黒枠単行本を代表する一冊でもあります。
私如きがゴチャゴチャ言っても詮無い話でありまして、単に紹介文を書くだけでも、ただただ力不足を痛感させられました。
復刻も出ておりますので、漫画の持つ可能性に思いを馳せる方は是非とも読んでください。
「蔵六の奇病」と同じく、ここにはまだまだ、開拓されるべき「世界」や「表現」「感性」が眠っております。
ちなみに、個人的ベストは「博士の地下室」です。
いやね、私、マッド・サイエンティストが大好きなんですよ。
この作品はかなりいい線いってます。サイコ〜!!
あと、全国のチビっ子達に拭い難いトラウマを植え付けた「地獄の子守唄」は、私、大人になってから読んだので、割合、冷静に受け止めてしまいました。
いや、凄い作品だと思うんですが、あれはやはりラストが肝ですので…。
怪談マンガ文庫とヒバリ・ヒット・コミックスにて再刊されております。
ただし、「あとがき(1971年4月1日執筆)」は黒枠単行本でしか読めません。
これを読むと、三島由紀夫の切腹事件って、当時、かなりショッキングな事件だったことがわかります。
・注1
p111の中段での下男のセリフと、p116の上段での科学者のセリフに「かたわ」という言葉が使われております。
p111のセリフに関しましては、ヒバリ・ヒット・コミックスでは訂正されております。
p116のセリフに関しましては、ヒバリ・ヒット・コミックスでの単行本での、「1983年5月6日発行/黄52」の単行本では残っているのに、「1986年9月16日発行/黄4」の方は訂正されております。
一応は、世間に配慮したのでありましょうか…一応は…。
・備考
カバー痛み、裏にカッターでの軽い切り込みあり。小口の三方に名前の記入があったらしく、荒っぽく研磨して消してある。本文、目立つシミ多し。
2017年3月30日 ページ作成・執筆
2017年4月26日 加筆訂正