大石まどか「めくら蛭」(1973年12月25日初版)



 一昔前、『キテレツ大百科』というアニメがありまして、そのアニメで『はじめてのチュウ』という歌がありました。
 いろんな人にカバーされ、アニソンという領域を飛び越えてしまった名曲です。(今は『キテレツ大百科』で使われてたことを知らない人、増えてるんじゃないでしょうか?)
 というわけで、今回は『チュウ〜、君とチュウ〜』というリフレインが頭にこびりついて離れない一冊です。(注1)
 …ってクリスマスにこんなマンガ、出しているのがすごいですね。

 粗筋は以下の通りです。
「時は江戸時代、徳の市という盲(めくら)の按摩の周りで怪死事件が頻発します。
 皆、首元から血を吸われ、失血死しているのですが、(マンガの表紙を見たら、一目瞭然)徳の市の仕業なのでした。
 徳の市の住屋の近くに穴ぐらがあり、そこには無数の蛭が生息しています。
 その蛭を養うために人の生き血を吸っていたのですが、蛭に血を与える方法は、褌一丁の姿で身体中に蛭を吸い付かせるというもの。
 蛭に血を吸われると、ものすごく気持ちがいいようで、徳の市が褌一丁で身悶えしているシーンが見開きいっぱいに描かれていて、気色悪いなんてもんじゃないです。
(しかも、2回も載ってます。おぞましいので、画像の掲載は見合わせようかと思いましたが、興味津々の方もいるかもしれませんので、そのような奇特な方はどうぞ→
 男だろうが女だろうが見境なく、たらこというよりハチエモン(関テレのあのキャラ)に近い唇で首元に吸い付きまくる徳の市。
 目障りな岡っ引き(マンガでは目明し)を蛭の穴に突き落として始末し、次に狙われるのが、主人公のお里という女の子です。
 お里は両親を亡くし、唯一の肉親である兄が無事に職人の修業から帰ってくるのを毎日、神社でお祈りしてるという、健気な子ですが、徳の市は彼女のことが大のお気に入りです。
 どうもロ○コンじみているのですが、徳の市のセリフは『お里ちゃんはかわいいのう』とか『あの子のやさしさがほしい』とかいうセリフしかないので、実際に何を考えていたのかよくわかりません。(やっぱりロリ○ンだったのかもしれません…)
 徳の市は病人のふりをして、お里を自分の住屋まで連れて行きます。
 が、そこにお里の下宿先の娘が駆け付け、徳の市に襲われそうになるも、急に(本当に急です。何の前触れもありません)地震が起こり、徳の市は家屋の下敷きになります。
 何とか這い出してきたものの、傷は深く、あらぬ方向を見つめて『ぐぉ〜』と叫びながら、蛭の棲む穴まで行くと、穴に滑り落ち、また何の前触れもなく地震が起こって、徳の市を生き埋めにしてしまうのでした。
 そして、最後に、
『血を求めて殺しを重ねた徳の市は蛭とともに土中に埋まった。
 蛭に血を吸われることに喜びを感じる徳の市の異常な性格を形づくっていたものは何だったのか…
 徳の市の正体は知れないまま、消え去ったのである』
 という作者の言葉が…
 内容を説明しようなんて気が微塵も感じられません!!
 読者、おいてけぼりです。

 でも、まあ、怪奇マンガってそんなもんです。
 怪奇マンガの目的は何か?
 ガキどもを怖がらせて、夜のトイレに行かさせなくするのが、子供向け怪奇マンガの『至上の目的』なのです。
 ガキをびびらし、小便を漏らさせるためなら、内容や手段なんてどうでもいいのです。ひどい場合は、ストーリーさえ添え物扱いです。
 過剰にグロテスク、ただただ陰惨、ひたすらに残酷…怪奇マンガは、いい年こいた大人がそんなものを追求する、唯一のジャンルであったように思います。(注2)
 ただ、その方法を選ばなかったために、内容がものすごいことになってるマンガの宝庫でもあります。
 こんなものに片足どころか喉元までどっぷり浸かってしまうなんて、私の前世の因果は如何ほどのものなのでありましょうか…。

 今回ご紹介した『めくら蛭』は徳の市の気持ち悪さと投げやりなラストを除いては、全体的にしっかりしており、かなり読ませます。
 特に、絵に関しては、無駄のない描線が素晴らしく、女性の描写は惚れ惚れといたします。
 作者の大石まどかという人は、貸本マンガの時代から80年代まで息長く活躍した人でして、かなりのベテランです。
(ベテランでしっかりしている分、はっちゃけたところが少なく、地味な印象があります。ちなみに、男です…。)
『めくら蛭』は大石まどか先生の作品の中で、知名度も人気もトップクラスなのようですが…
 ただ、これが…

 そう…

『めくら』

 アウト!!です。
 マンガの中では、目明しの親分が『どめくら』を連発しています。(目明しが言うなんて、ちょっとブラック。)
 復刻は無理そうですね…。
 そういうわけで、よくできているんだけど、言葉一つで葬り去られるマンガなのでありました。
 惜しむ人は少なそうですが……とりあえず、私は忘れません。

・注1
 そう言えば、昔、「チュ〜して」とかほざくCMがありました。
 徳の市、こやつらめを懲らしめておあげなさい!!

・注2
 今となっては、斯様な怪奇マンガは過去のものでありましょう。
 怪奇マンガよりも遥かに恐ろしい「現実」というものが、怪奇マンガの領域をどんどん侵食していっております。
 今や怪奇マンガの大半は、キチガイを扱ったものか、あの世がどうたらかんたらというマンガばかりという有様。
 そういうマンガも嫌いではないのですが、私としては「想像力」だけで織り上げられた「怖い話」が好きなのであります。

平成22年7月中旬 とりあえず完成
平成25年7月3日 改稿・ページ作成
平成27年11月11日 改稿

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