あしべゆうほ「魔獣の棲む森」(1974年11月25日発行)

「考古学者の兄に連れられ、砂漠の中の遺跡を訪れたロッド・ウィルソン。
 その遺跡は十五年前に発見されたものの、発見者も発掘調査隊も皆行方不明になり、詳しいことがわからず、呪われた遺跡と呼ばれていた。
 その遺跡のそばに、森を見つけ、二人はそこにテントを張ることに決める。
 そこへ顔の皮膚がドロドロに溶けた痕のある男がロッド達に森に入らないように忠告する。
 が、ロッドの兄はその言葉を無視して、二人は森の中にテントを張る。
 夜、薪を拾いに行った兄の悲鳴を聞きつけ、ロッドが現場に駆け付けると、血だまりの中に腕一本転がっているだけだった。  半狂乱になって兄を探そうとするロッドのもとに、顔の溶けた男が現れ、ロッドを森の外の小屋に強引に連れていく。
 男はロッドを落ち着かせてから、森の秘密について話す。
 彼はサミエル・ジョーンズという名で、この遺跡を発見した考古学者であった。
 十五年前、彼と同僚の考古学者、エドガー・ストレイカーは洞窟にはめ込められた石板の奥を確かめようとする。
 石板には奇妙な古代文字が刻まれていて、全く意味がわからない。
 石板の文字を言語学者かつエドガーの妻である、ノリコに写させた後、石板を撤去する。
 すると、砂漠の中に突如、密林が出現し、洞窟の奥からは巨大なイモムシのような怪物が現れる。
 怪物は触手でエドガーを絞殺し、エドガーを助けようと触手を傷つけたサミエルは噴き出た酸で顔面が焼けただれてしまう。
 ノリコとサミエルはその場から逃げようとするが、ノリコは再び夫のもとに戻ろうとして、そのまま行方不明。
 サミエルは怪物を再び封印するために、森のそばに留まり、怪物を封印していた石板を作り直そうとしていた。
 だが、その古代文字がどうしても思い出せない。
 ただ、森の中にある、彼らが遺跡調査のために建てた家には、石板の文字の写しがあるらしく、サミエルとロッドはその家に向かう。
 一方、森の中の家では、行方不明になったノリコと彼女の娘、陽子が暮らしていた…」

 現在も活躍中の大ベテラン、あしべゆうほ先生がひばり書房に残した、唯一の作品です。
 お世辞でなく、傑作です。当時の怪奇マンガのベテランさん達に見劣りしない内容は「流石」の一言です。
 しかし、知名度は恐ろしく低いのです。
 理由は希少性(注1)と、復刻されていないためと思われます。
 もし、あしべゆうほ先生にとって思い出したくないような作品でないのであれば、復刻を是非とも検討していただきたいものです。

 内容に関しましては、クトゥルー神話の影響を受けたのでありましょうか?
(個人的に、H・P・ラブクラフトを連想しますが、熱心な読者でありませんので、判断しかねます。読んでて、疲れませんか?)
 もしくは、何かの怪奇SFの影響かもしれませんが、いずれにせよ、当時としては斬新かつマニアックな内容であったように思います。
 このイモムシみたいなモンスター、身体の表面に犠牲者の顔を浮き出させ、犠牲者の身体を模した偽餌まで用いるあたりが、どうにもラブクラフトちっくに思うのですが、確証はありません。(注2)
 ストーリーはかなり面白く、また、素晴らしいことに、グロ描写が半端でありません。
 モンスターに人間が貪り食われる描写等、ここまでするか!!と目が点になること必至です。
 このプロ意識が、傑作かつトラウマ漫画の代表作の一つ「悪魔の花嫁」を生み出した要因の一つなのでありましょう。

 巻末のページに、「怪奇旅行第一話 死人の火祭り」という次回予告があります。
 恐らくは、雑誌の方の仕事が忙しく、流れてしまったのだと思いますが、読んでみたかったなあ…。
 次回予告の稿を上に載せておきましたので、皆様も、ちょっぴり感慨に耽ってみてくださいませ。

・注1
 高園寺司先生、まちだ昌之先生、矢乃藤かちすけ先生と同じく、当時、どれだけ売れたのか、非常に気になります。
 でも、ここまで出現率が低いところを見ると、余程売れなかったものと推測されます。
(もしくは、後年、あしべゆうほ先生が有名になったので、持っている人が手放そうとしないとか?)
 状態の悪い単行本しか持ってなく、せめて並みの状態のものを手に入れようと努力しましたが、如何せん貧乏人なので、何度も機会を逃しているうちに、モノ自体見ることがなくなりました。
 ピンク枠の単行本、欲しいなあ…。(黒枠の方がレアと聞きましたが、実際のところはよくわかりません。)

・注2
 そう言えば、スティーブン・キング「クラウチ・エンドの怪」(「新編 真ク・リトル・リトク神話体系E」(国書刊行会/2009年1月20日初版発行)に、人の顔がついた触手の描写があったなあ。
 でも、1972年頃には、永井豪先生の「デビルマン」にジンメンというのがいたし…
 あ〜、もうワケ、わかんねエ!!

2016年1月10日 ページ作成・執筆

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