大石まどか「お岩の怪談」(1973年1月31日発行)

「悪事を犯し、浪人の身となった民谷伊右衛門。
 妻の岩を実家に帰され、復縁を求め、岩の父親に掛け合うが、罵倒される。
 怒りにかられ、父親を斬った伊右衛門は、現場に居合わせた悪友の直助と口裏を合わせ、素知らぬ顔で岩の前に現われ、仇を討つことを約束する。
 一年後、伊右衛門と岩の間には赤ん坊が産まれていた。
 が、伊右衛門は浪人、岩は病気がちという貧乏暮らし。
 伊右衛門はすぐに岩に飽き、岩と赤ん坊を顧みずに、飲み歩きに博打三昧、遂には借金で首が回らなくなる。
 そこへ伊藤喜兵衛の娘、お梅が伊右衛門に横恋慕。
 娘の恋を成就させたい伊藤喜兵衛夫婦は、借金の肩代わりする代わりに、梅の婿になるよう提案。
 そして、岩に劇薬を血の道の漢方薬と偽って、飲ませるのだった。
 醜く、爛れ、腫れ上がる片目。抜け落ちる髪の毛。
 伊右衛門は自分が疑われるのを避ける為、直助に岩を殺すよう金を積む。  金を詰まれりゃイヤと言えない悪党の直助も、岩の変わり果てた容貌に腰を抜かし、ことの全てを喋ってしまう。
 話を聞くまで伊右衛門を信じていた岩だったが、自分が完全に裏切られたことを知る。
 復讐しようと、ふらつく身体で小刀を取るが、転倒した際に、自分の喉を突いてしまう。
 岩の死を伊右衛門が見届けに来た時、金貸しが借金の催促に尋ねてくる。
 伊右衛門は金貸しを斬殺し、密通した間男・姦婦として、金貸しと岩の死体を戸板に釘付けして、川に流す。
 岩は片付き、晴れて伊藤喜兵衛の娘、梅のもとに婿入りが決まる伊右衛門。
 しかし、梅と二人きりの時、目の前に岩の姿が現われる。
 岩を斬ったはずが、袈裟切りにされていたのは梅だった。
 悲鳴を聞き、駆け付けた、梅の両親も、伊右衛門には岩や金貸しの姿に見え、斬殺してしまう。
 この騒動の最中、倒れた行灯により、屋敷は火に包まれるた。
 全てを失い、山中の寺に身を隠す伊右衛門であったが、岩の怨霊はどこまでも、どこまでも伊右衛門に付きまとう…」

 素晴らしい!!
 数ある「東海道四谷怪談」を描いたマンガの中で、個人的ベストです。
 後年、大石まどか先生は同じ題材で、立風書房のレモンコミックスで「亡霊!四谷怪談」を描いているのですが、あちらが純愛ものの要素が強いのに対して、ひばり黒枠のこちらの方は徹底してエグいのであります。
 伊右衛門も冷酷極まりない無頼漢として描き、ラストはその所業にふさわしく鼠の大群に襲われ、骨となってしまいます。(注1)
 と、話自体は陰惨極まりないものなのですが、大石まどか先生の特徴である、切り絵のような画の際立った美しさが、このマンガに格調高さを与えております。



 あと、この作品には「怪談お糸地獄」という後日譚を扱った作品が存在します。
 こちらはアナザーサイド・ストーリーといった趣ですが、これもまた美しい作品です。(グロ描写は控えめです。)

・注1
 全部が全部、「東海道四谷怪談」と一緒ということはなく、基本的な筋は一緒ですが、所々、アレンジされております。
 岩の赤ん坊は、岩の知り合いの坊主に預けられることになっておりますし、直助の最期も岩の亡霊に沼に引きずり込まれるというものになってます。
 まあ、鶴屋南北の原作を読んだことがなく、映画「東海道四谷怪談」(名画!!)の知識をもとにしておりますので、あまり当てにはなりませんが…。

・備考
 カバーのお岩の絵と、本文のお岩の絵を、上からなぞったような痕あり。

2015年1月21・24日 ページ作成・執筆
2017年5月30日 加筆訂正

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