犬木加奈子「怪奇診察室A」(1994年12月7日1刷発行)

 精神科医、神輪(みわ)の診察室を訪れる少女達。
 彼女達が話す話の一つ一つに、人間の心の深淵を垣間見ることとなる…。

・「カルテ7 からくり箱(前編)」(「恐怖の館DX Vol.11」初出)
「岩崎ちひめは、元教師の父親から勉強だけを強いられ、テレビというものを全く知らずに過ごしてきた。
 テレビは両親の部屋にあり、父親からテレビの中には「恐ろしい物」が潜んでいると脅される。
 また、クラスメート達によると、テレビは「すっごく怖」くて「だから面白い」ものらしい。
 ある日、両親のいない時、彼女はテレビに近づき、スイッチを入れてみる。
 テレビではサスペンス番組が放送中で、知らない女性が助けを求めており、ちひろはショックを受ける。
 以来、ちひろはテレビが気になって仕方なく、両親の留守中に、何度もテレビを眺める。
 彼女は、テレビの中の「知らない世界」への憧れを強めていくのだが…」
・「からくり箱(中編)」(「恐怖の館DX Vol.12」初出)
「テレビの中に魂を吸い取られた、岩崎ちひめ。
 ちひろの母親は、神輪に電話をして、助けを求める。
 神輪はまず、ちひろの関心を自分に向けさせようとするが…。
 一方、ちひろの魂は、テレビに魅入られた人達がいる街へと案内されていた…」
・「カルテ8 からくり箱(後編)」(「恐怖の館DX Vol.13」初出)
「自分では手に負えず、神輪は、知り合いの霊能力者の老婆、雨月を訪ねる。
 雨月は、ちひろをこの世に戻すために、テレビの中へと入り込むのだが…」

・「二人のカオル」(「恐怖の館DX Vol.15」初出)
「小部カオルは、醜い容貌のコンプレックスが凝り固まった、陰気な16歳の女子高生。
 彼女は、不満だらけの生活から逃避するために、華やかで美しい自分を空想して過ごす。
 ある日、学校で転んだ時、自分を助け起こしてくれる青年が空想の中に出てくる。
 彼を自分のものにするために、カオルは自分の空想の中に入り込むのだが…」
 雑誌「ホラーハウス」での作品(「赤ずきんの森」収録)に加筆訂正を施して、再録したものです。

・「カルテ9 うわさの少女」(「恐怖の館DX Vol.17」初出)
「マト子は極めて平凡な女子中学生。
 誰の記憶にもとどまらないような地味な娘であったが、突如、噂の的となる。
 その噂とは、彼女が、イケメンの寿つかさからラブレターをもらうが、彼をふったというものであった。
 つかさは全力で否定するも、噂にはどんどん尾ひれがついていき、彼を悪者に仕立て上げていく。
 ノイローゼになった彼は、冬のある日、線路に落ちて、死亡。
 すると、今度は、マト子に、彼の霊が憑いているという噂が立ち始める…」

・「カルテ10 ドッペルベンガ―を見た少女」(「恐怖の館DX Vol.19」初出)
「アイドルのオーディションに現れた、得体の知れない少女。
 彼女は記憶を失っており、ただ、スターになってテレビに出たいという願望だけが残っていた。
 あるプロダクションの女社長は、彼女に目を付け、双葉と名付けて、売り出す。
 彼女はとんとん拍子にスターへの階段を歩むが、彼女は時々、神隠しのように姿を消してしまう。
 女社長は双葉を神輪のもとへと連れて行くのだが…。
 彼女がスターになるために「捨てて来た」ものとは…?」

・「カルテ11 霊感少女」(「恐怖の館DX Vol.21」初出)
「神輪の診察室を訪れたルカ子は、霊感少女。
 幼い頃から様々な経験をしていたが、周囲に理解者がいないことが苦痛でたまらない。
 母親は、ルカ子を心配して、霊能者のもとへ連れて行く。
 そこでルカ子が見た、霊能者の正体とは…?」

 絵柄のせいか、あまり言及されることがないような気がしてますが、犬木加奈子先生は短編の名手です。
 細部まで丁寧に練られており、めちゃくちゃ上手い!
 個人的な好みを言えば、「ドッペルベンガ―を見た少女」「霊感少女」は、「怪奇診察室」の中で白眉だと思います。

2020年1月5・6日 ページ作成・執筆

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