日野日出志「蔵六の奇病」(1998年7月30日1刷発行)

 収録作品

・「叙情怪奇シリーズ@ 蔵六の奇病」(「少年画報」1970年9号) 「昔、さる国に「ねむり沼」と呼ばれる沼があった。
 不思議なことに、その沼には死期の迫った動物達が集まってきて、村人達は祟りを恐れ、決して近づくことはない。
 ねむり沼の近くにある村に、蔵六という農夫が住んでいた。
 蔵六は幼い頃より頭が弱く、絵を描いたり、日がな一日、ぼんやりと物思いに耽ったりして過ごしていた。
 彼の願いはただ一つ、あらゆる色を使って、絵を描いてみること。
 しかし、彼の頭では色をどうやって手に入れたらよいかがわからず、願いだけが日増しに強まっていくのであった。
 ある春のこと、彼の顔に七色のできものができる。
 できものは全身に広がり、身体中が異様にむくむが、医者に診せても、皆、お手上げであった。
 病気が伝染する恐れがあり、兄の太郎と父親は、蔵六をねむり沼にある小屋に住まわせる。
 ただ一人、母親だけは蔵六を心配し、食料と薬を運んでくれた。
 梅雨、蔵六のできものからは七色の膿が出て、下半身が異常に膨らんでくる。
 彼は膿を色ごとに容器に取り分けて、絵を描くことを思いつく。
 蔵六は夢中になって絵を描き続けるが、季節が過ぎるにつれ…」

・「日野マンガの原点を語る!!」(前編)

・「叙情怪奇シリーズA かわいい少女」(「少年キング」1972年2号)
「古い民家や村の写真を撮るために、旅をしている青年。
 道に迷った彼は、夕暮れ時に、ある村に辿り着く。
 道を聞くために、彼がある家を訪ねると、少女が一人留守番をしていた。
 両親が葬式から戻るまで、彼は囲炉裏のそばで待たせてもらうが、その間、少女は彼に村に伝わる伝説を語る。
 昔、この村の人は足を怪我した老僧を手厚くもてなし、老僧はこの村の寺に住むようになる。
 この老僧の不思議な力とは…?」

・「叙情怪奇シリーズB鶴が翔んだ日」(「ペケ」1978年12月号)
「雪国。
 ユキは病弱な少女で、ほとんど寝たきりのせいかつであった。
 父親は出稼ぎに出ており、母と祖母の三人暮らし。
 彼女の楽しみは、鶴の姿を部屋から見ることであった。
 ただ、年々、鶴の数が減っていくのが少女の気にかかる。
 また、彼女には秘密があった。
 鶴を折り、部屋から折り鶴を飛ばすと、鶴は空の彼方へと飛んでいき、数日後、戻ってくる。
 それを枕元に置いて寝ると、様々な夢が見られるのであった。
 父親が戻ってくる日の朝、少女が庭を見ると、鶴が全部死んでいた。
 彼女は庭にとび出て、鶴の死骸を胸に抱いて嘆くが、そのせいで肺炎になり…」

・「叙情怪奇シリーズC 赤い実のなる踏切」(「銀星倶楽部」1985年4号)
「廃線となった線路の横にある家。
 少年が家の前の小川で魚を取っていると、踏切の向こうから片目片足の老婆がやって来る。
 老婆は家の中にいた姉に「女の子だけが食べる」赤い実を渡し、姉は美味しそうにその実を食べる。
 その夜、姉は飼っていたカナリアを喰い殺し、弟にそのことを誰にも言わないよう脅す。
 翌日、少年がまた川で魚をとっていると…」

・「叙情怪奇シリーズD 山鬼ごんごろ」(「少年キング」1977年増刊号)
「山鬼ごんごろは気は優しくて、力持ち。
 山のみんなに愛されていたが、秋のある日、彼は下界に興味を持つ。
 下界には「人間」という「この世でいちばん恐ろしい生き物」が住むと止められるが、彼は一番の力持ちだからと山を降りる。
 人里の近くで、彼は盲目の娘を一目惚れする。
 その娘の前に突如、大蛇が現れるが、ごんごろはその大蛇に見事勝利。
 娘がごんごろにお礼を言うと、その娘の美しさにごんごろは心を打たれる。
 一旦、山に戻っても、考えるのは娘のことばかりで、彼はもう一度下界に降りる。
 彼は娘と再会し、以来、毎日のように山を降り、娘や子供達と遊ぶ。
 娘は次第に彼の優しさに惹かれ、二人は夫婦になる誓いを立てる。
 だが、娘の両親や村人達はごんごろが鬼の本性を現すのではないかと恐れ…」

・「叙情怪奇シリーズE 百貫目」(「少年画報」1970年13、14号)
「山の麓の一軒家。
 その家の長男は、気は優しくて力持ちの青年。
 彼が九人の弟や妹たちと野山で木の実や山菜を取っている間に、両親と祖父母は夜盗に殺され、家が焼かれる。
 彼らはこの地を離れ、鬼の面をかぶり、地方の村々で食べ物を盗んで、生きていく。
 特に、巨大な鬼を人々は「百貫目」と呼んで、恐れた。
 しかし、「百貫目」たちがいくら食料を得ても、百貫目は食欲旺盛で、満腹することがない。
 更に、冬が近づき、また、村では自警団を作るようになったため、状況はますます厳しくなる。
 そこで、彼らは庄屋の家から盗んだ着物や宝を都に売りに行くのだが…」

・「日野マンガの原点を語る!!」(後編)

 日野日出志先生の「叙情怪奇」ものを集めた一冊です。
 「叙情」と名付けていても、甘っちょろい夢物語とは違い、果てしない夢想の裏に、現実の過酷さ、残酷さ、非情さが生々しく息づいおります。
 でも、それ故に心に深く深くしみ入り、何度読んでも、涙腺が緩む作品ばかりです。(特に「山鬼ごんごろ」は胸が引き裂かれそうです。)

2023年11月30日 ページ作成・執筆

リイド社・リストに戻る

メインページに戻る