高階良子「昆虫の家」(なかよし8月号付録/1973年8月1日発行)

「孤児達が暮らす、桜養護園。
 クレールは、日本人男性と、フランス人のクラブの踊り子の間に産まれた混血児であった。
 父親はわからず、母親は彼女を養護園に連れてきた後に病死。
 クレールは美しいものに憧れ、執着し、そして、独占欲が異常な程、強かった。
 他の園児から忌み嫌われていることなど歯牙にもかけず、彼女はこの世で最も美しいもの、蝶の標本を集めることのみを楽しみとする。
 しかし、自分は混血児で孤児の身の上、美しいものがいくらこの世に存在しても、それを手に入れることは困難で、フラストレーションに苛まされる。
 ある日、クレールは、大葉学園に「チョウのような女の子」がいるという噂を耳にする。
 その少女は、テニス部の明石洋子で、クレールは一目見て彼女に夢中になる。
 更に、今まで集めた蝶の標本を園児達から壊されたことにより、彼女はますます洋子に執着し、ストーカー行為にまで及ぶ。
 そんな時、クレールの父親が明らかになる。
 父親の家はクレールの母を認めず、そのうちに父親が病死し、そのことを後悔した祖父母はクレールに莫大な財産を遺したのであった。
 一夜にして、大金持ちになったクレールは、何でも手に入る身分となる…たった一つのものを除いては…。
 一年後、明石洋子は、男友達の写真部部長、久松晃から、上高地に誘われる。
 彼の友人から、蝶の舞い飛ぶ、美しい場所を教わったのであった。
 二人の仲をやっかむ奈々江を加えた三人で、彼らはその場所に向かうが、道に迷ってしまう。
 天候は悪化し、吊り橋のロープは切られ、二進も三進も行かなくなった時、彼らは山中で洋館を発見する。
 館の主人は彼らに親切に接してくれ、ほっと息つく間もあらば、気が付くと、彼らは別々の部屋に監禁されてしまう。
 そう、館の女主人はクレールで、全ては彼女が巧みに仕組んだことであった。
 クレールの望み通り、遂に洋子は彼女の手中のもの。
 だが、洋子の美しさを永遠に保たなければ、コレクションとしては完璧ではない。
 洋子はクレールの異常性に気付き、館から脱出を図るのだが…」

 ウィリアム・ワイラー監督のサイコ・スリラー「コレクター」(1965年)にインスパイアされたと思しき名作です。
 あの時代に、異常心理を真正面から扱っており、かなり尖鋭的であったのではないでしょうか。
 参考になった作品はあっても、単なる二番煎じでなく、きっちり別の作品にアレンジしており、高階良子先生のポテンシャルの高さが伝わります。
 映画では孤独な青年が主人公でしたが、こちらでは、美しいものに執着する、孤独な混血児の少女がヒロインで、陰湿度がアップしている気がします。(注1)
 倒錯したエロスの芳香もほのかに漂い、どこか江戸川乱歩的なものを感じるのは、私の穿ち過ぎた見方でありましょうか?

 ティーン・コミックス(若木書房)やボニータ・コミックス(秋田書店)に収録されております。

・注1
 「コレクター」を観たのは二十年も前の話ですので、詳しい内容等、忘れてしまいました。
 テレンス・スタンプ演じる主人公が、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」に怒り狂っているシーンが印象に残っております。
 原作があるようなので、機会があれば、読んでみましょう。

・備考
 コミックス版との違いとして、扉絵なし。pp2・3、カラー絵。
 付録では広告のあるところがコミックスでは新たに描いた絵(左が付録、右が単行本)。
 ラスト・ページの欄外の「このおそろしい事件を人々がしったのは、晃が口をきけるようになった一か月後だった……」という文章は付録のみ存在。

2017年7月31日・8月1日 ページ作成・執筆

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