日野日出志「黒猫の眼が闇に」(1980年11月15日発行)
「ゴミ捨て場で生まれ育った黒猫。
ゴミ捨て場を出て、人間の住む世界に出た彼(?)は、人間というものに興味を抱く。
彼の見てきた、様々な人間模様とは…。
・「第一話 腹話術師の男」(注1)
サーカスでピエロを勤める男。
しかし、芸がなく、仕事は切符切りやら雑用ばかり。
男は酒に溺れていき、遂には、団長に何かの芸をしなければクビと通告される。
どうしてもサーカスに残りたい男は部屋にこもり、少年の姿をした腹話術の人形を作り上げる。
太郎という名の人形は大評判を呼び、サーカスは大盛況。
しかし、人形の人気が上がるにつれ、男の酒量は前以上に増えていく…。
・「第二話 ある怪奇漫画家」(注2)
実生活からして「怪奇」を実践している、ある怪奇漫画家。
彼が今描こうとしているのは、怪奇漫画家が怪奇漫画を描くという作品であった。
その作品の中で、怪奇漫画家が怪奇漫画を描き、その怪奇漫画の中で怪奇漫画家が怪奇漫画を描き…と無限に続くのである。
作品は遂に完成されるのだが…。
・「第三話 少年と黒犬」
母子家庭の少年。
母親は水商売で家に帰らないこともたびたび。
孤独な生活のため、少年は陰気になり、いじめっ子達の恰好の標的となる。
ある雨の日、少年は黒犬を拾う。
ペットのおかげで、少年は心に張り合いができ、いつも黒犬と一緒に過ごすようになる。
ある日、少年が河原で黒犬と遊んでいると、いじめっ子に絡まれる。
すると、黒犬がいじめっ子を噛み殺してしまう。
困った少年は河原の片隅にある深い穴にその死体を投げ込み、誰にも気付かれなかった。
これに味をしめた少年は、他のいじめっ子も黒犬に襲わせ、その死体を穴に遺棄。
いじめっ子達を全員始末した時、母親が家に戻ってくる。
母親は少年の新しい父親を連れていたが、父親は犬嫌いであった。
少年は父親を選ぶか、黒犬を選ぶかの選択を迫られる…。
「第四話 じいさん ばあさん」
元・彫刻家の爺さんと、元・モデルの婆さん。
同じ家に障子一枚隔てて、暮らしていたが、毎日、二人は何らかの理由をつけては激しくいがみ合う。
だが、冬のある日、風邪がもとで婆さんがぽっくり逝ってしまう…」
個人的には、日野日出志版「キャッツ・アイ」(スティーブン・キングの小説を映画化したオムニバス・ホラー映画の方)。
メタフィクションな「ある怪奇漫画家」と、個人的なベストである「少年と黒犬」が面白かったです。
短編はそれぞれ内容的にまとまって、トータルな作品としての出来はいいと思いますが、子供達の望んだ(かもしれない)「ゲテゲテしさ」は陰を潜めております。
ぶっちゃけ、地味めの作品でありまして、どれだけ売れたのか、ちょっぴり気になるところです。
・注1
腹話術師とその人形を題材とした小説や漫画は幾つかあります。
古典的な作品としては、ベン・ヘクト「恋がたき」があり、その影響を受けたのか、古賀新一先生は貸本マンガの短編で似たようなテーマで描いてます。
あと、サスペンス映画で、アンソニー・《レクター博士》・ホプキンスが主演した「マジック」(米・1978年)もあり、もしかしたら、この作品に影響を与えているかもしれません。(映画はかなり昔に観たので、内容、あまり覚えておりません。)
脱線ついでなのですが、「夢の中の恐怖」(英・1945年)というオムニバス・ホラー映画がありまして、その中の最終話が腹話術師とその人形を扱ったものでありました。
観たのが約二十年前なので、いつか観返したい映画です。(最終話しか面白くなかった記憶があります。)
・注2
この手のマンガってありそうなのですが、私の記憶にはありません。
もしも似たようなマンガを御存知の方、いらっしゃいましたら、ご一報いただけますと、幸いです。
・備考
最終ページに蔵書印が押印。
2017年5月28日 ページ作成・執筆