浜慎二「呪いの猫の島」
(1980年6月15日第1刷発行・1982年7月15日第5刷発行・1985年4月15日第12刷発行)

「冒険・怪奇小説で有名な小説家、石毛大三は、取材のために、天草灘にある離れ島、猫島を訪れる。
 大三は島の家々を回って、話を聞こうとするが、皆、門を閉ざし、何も語ろうとしない。
 村の奥に、立派な造りの屋敷があり、大三はそこを訪ねるが、そこの主人の老人は片手、片足の松葉杖、そして、片目で頭巾という格好だった。
 すげなく「帰れ」と言われ、大三は腹をくくって、野宿してでも、この島の秘密を知ろうとする。
 その夜、片手片足の老人の娘が大三のもとに来て、島から立ち去ることを条件にこの島の秘密を話すと言う。
 猫島は江戸時代、それなりに金が出て、そのために多くの罪人が送られてきた。
 ある年、島で飢饉が起き、島民は猫を捕まえて、食用にしてしまう。
 が、十日後、猫を食べた人達は皆、原因不明の熱病にかかり、死亡。
 その供養のために猫塚を立てて、熱病は治まったが、猫憑きが起こるようになったのだった。
 島民の一人が猫憑きになったことを聞き、大三は猫憑きを実際に目にしようと考える。
 その夜更け、屋敷の門から奇声を発する女性を縛り付けた戸板を運ぶ男性四人を大三は目撃、後をつける。
 彼らはある洞窟に入るが、その中では片手片足片目の老人が「猫祓い」をしている最中だった。
 彼は奇妙な念仏を唱えながら、縛られた猫憑きの女性に、火のついた松明を近づけたり、柄杓で喉に水を流し込んだりするよう、男衆に命じる。
 あまりに前時代的なやり方に、大三は彼らの前にとび出して止めようとするが、彼らの迫力に何もできず、結局、言われたまま、洞窟を後にする。
 その時、猫憑きの女性の顔が猫のように変わると、口から何か黒いものが飛び出した。
 島を去った大三は、東京の家族(妻と娘)のもとに戻り、今回の体験を執筆しようとするが、その夜、大三に異変が起きる。
 大三に「猫」が憑いて来たのだった。
 それは妻や一人娘の夏子にも襲いかかる…」

 傑作だと思います。
 排他的な離れ小島、猫憑き、暴力的な憑き物落としといった土着的なテーマを扱っておりますので、「暗い」とか「地味」とか感じる人も多いでしょうが、現在では反って新鮮なのではないでしょうか?
 浜慎二先生もかなり力を入れたようで、安直なところは見当たりません。(手書きの「玉のれん」に感動しました!)
 難を言えば、「猫祓い」があっさりし過ぎている感があることでしょうか。
 もうちょっと派手にやった方が受けたかもしれませんが、やっていることは「拷問」ですので、やっぱり問題あるかも…。(注1)
 ちなみに、浜慎二先生は貸本時代の頃から、ポリシーなのでしょうか、残酷描写はかなり控えめです。
 これは立風書房の単行本にも受け継がれておりまして、「地味」な印象を与えてしまっているようですが、この作品などでは夏子が兎を食い殺して、腸(はらわた)を引きずり出している場面の描写なんか、かなりヘビーです。
 そのため、良作であるのに、女性や子供にお勧めできないのが、ちと残念であります。

・注1
 狐憑きを祓おうとして、殴ったり蹴ったりしてたら死んじゃった…というような事件について述べた本があります。
岩川隆「殺人全書」(光文社文庫/1988年6月20日第1刷・1990年1月10日5刷発行)「第四章 古典的な確信 二 キツネ憑きと呪い」
 興味のある方はご一読を。
 そう言えば、中学生だった私が阿部定事件を知ったのも、この本でした…。

平成27年3月1日 ページ作成・執筆

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