ムッシュー・田中「死人の足音が近づく」(1985年4月15日第1刷・12月15日第2刷発行)

「夜更けの帰り道、天羽秘魅子(あもう・ひみこ)とその母親は、湘南の逗子トンネルへさしかかる。
 そのトンネルには幽霊が出るとの噂があった。
 トンネルの出口付近、フード付きのマントで身を覆った女性らしき人物が車の前によろめき出てくる。
 秘魅子の母が様子を見に出ると、その人物が鋭い爪で襲いかかってくる。
 秘魅子の母は右手の中指と薬指を喰いちぎるものの、ちっともこたえた様子はなく、顔中を爪で切り裂かれてしまう。
 秘魅子はどうすることもできず、失神、気が付いた時には、病院のベッドの中にいた。
 刑事によると、現場には、失神した秘魅子とその母、それに、謎の女性の死体があったとのこと。
 その女性の死体の検分に秘魅子は立ち会わされるが、とても死体を正視できる精神状態ではない。
 秘魅子の母は顔中に傷を負い、自宅療養することになるが、以前の母親とは全く雰囲気が違う。
 ある夜、母親の両目が青く光っているのを目にし、秘魅子は女性の死体が実は母親ではないのかという疑いを持つ。
 もう一度、死体の検分に出かけると、死体の女性は母親に似ていたが、右手は中指・薬指が欠損しており、やはり母親を襲った女性に違いない。
 秘魅子が安心して、帰宅すると、母親の顔からは包帯が取れ、全快したと告げられる。
 だが、母親の右手には中指と薬指がなかった。
 秘魅子がそのことに気付いた時、母親の形相は一変、彼女に襲いかかってくる。
 秘魅子は逃げ出すが、父親も隣人も何かに憑りつかれたかのように変わって、彼女を襲う。
 彼らに捕らえられた秘魅子の前に、彼らのボスである「族長」が姿を現わす。
 そして、今、千七百年の時を越え、邪馬台国の卑弥呼に一族を滅ぼされた狗奴(くな)族の呪いが蘇える…」

 私、このマンガ、小学校高学年の時、持ってました。懐かし〜。(でも、怖いとかの記憶はあまりなかったです。)
 んで、改めて読んで、感銘を受けたのは、この「絵」ですね。
 ムッシュー・田中先生は実はプリンス田中・名義で「エロ劇画」をガンガン描いておられた方でして、怪奇マンガでも絵柄は「エロ劇画」なのであります。
 ストーリーに関係なく、過剰にケバケバ・ムチムチな美少女がモンスターに追っかけまわされたり、サディスティックな目に合わされるだけで、「絵になる」なあ〜、とムダに感じ入ってしまいました。
 ちなみに、ストーリーは突っ込みどころ満載ですが、敢えて触れません。
 これは、肉感的な女の子があの手この手でいじめられるのを楽しむためのマンガなのであります。
 そう考えると、エロ・マンガと基本的なコンセプトは同じなのかもしれませんね。

 あと、印象的なのは、ムッシュー・田中先生の自画像でありましょう。
 いくら純真無垢な小学生でも違和感を覚えざるを得ないほど、ハッタリかましておりまして、やり過ぎ感は否めません。
 とは言え、この仰々しい語り口が意外と味わい深かったりします。(DVDの「呪いのビデオ」シリーズでの語り口を彷彿いたしました。)
 また、実名&写真付きで心霊体験談を披露したりしていて、妙に「アツい」ところもいいです。

・備考
 p186、余白に鉛筆で落書きあり。

2017年5月31日 ページ作成・執筆

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