三原一晃「恐怖亡霊屋敷」(1982年1月15日第1刷・4月10日重版発行)
「夏休みを利用して、盆の季節に旅行に出かけた三人娘、笹原みゆき、香野サチ、川辺時子。
しかし、泊まるはずの旅館に予約が入ってなく、宿にあぶれてしまう。
そんな時、みゆき達の前に黒猫が現れる。
黒猫に誘われるように付いていくと、山奥に「畠山」という表札の、荒れ果てた民家があった。
その家には老婆と、その孫娘のかすみという名の着物姿の少女のみ。
三人は老婆に泊めてくれるよう頼み込むと、盆の間だけなら構わないと言う。
また、泊まる間は、仏壇に花や水を備えるといった、簡単な仏の供養することを約束させられる。
古く、敷地内には墓があるような気味の悪い屋敷であったが、当座の宿泊先を確保できて、胸をなで下ろす三人娘。
とりあえず、遊びに出ようとした矢先、サチが階段を踏み外して、捻挫してしまう。
サチを置いて、残りの二人が町に出ようとするが、堂々巡りをするばかりで、いつまで経っても町に出ない。
そのうちに、驟雨に襲われ、家に戻ろうとしたところ、二人は人魂に襲われる。
かろうじて家に辿り着いたものの、サチが原因不明の寒気に襲われており、時子も急に苦しみ出す。
そこへ、老婆が現れ、これは畠山家を呪う亡霊が二人に憑りつき、足止めをしていると話す。
老婆によると、畠山家の祖先は剣の達人として、藩の師範役に抜擢されたほどの人物であった。
しかし、彼は殿より賜った名刀に心を奪われ、人で試し切りをしたいという欲求が募らせる。
ある日、女中のお蝶が用意した、足を洗うための桶にカエルが入っていたと因縁をつけ、手打ちにしようとする。
お蝶の父親は娘の命乞いをするが、その代わりに、お蝶の父親は打ち首になる。
天涯孤独の身の上になったお蝶は、畠山一族を末代まで呪うことを誓い、入水自殺。
以来、畠山家の男性は皆怪死するようになり、残された老婆とお蝶までも苦しめ続けていたのであった。
サチと時子が快方に向かったら、みゆきはこの家を出ていくように勧められるが、意外な事実が判明する。
実は、みゆきの母親は畠山家から別の家に養女に出されており、みゆきは畠山家の末裔であった。
そして、老婆とかすみは、みゆきを守るために現れた亡霊だったのである。
みゆきが畠山家の血を引いていることを知った、お蝶とその父親の霊は、みゆきを亡き者にすべく、襲いかかる…」
普通に考えれば、他にも紹介すべき怪奇マンガはごまんとあるのですが、このマンガには個人的な思い出のあるのです。
私がこの本を手にしたのは、小学校の中学年〜高学年あたりの頃でした。(注1)
当時、マジで怖かったです!!
足の裏で潰れたカエルの描写、打ち首の描写、生首を小脇に抱えた亡霊の描写…いい年こいた今も忘れません。
表紙の緑色した女性の絵を見るだけでも、当時の恐怖がありありと蘇ります。
しかし、いつしかそんなことも忘れ、十年以上経った頃、大学生になった私は、酔狂なことに怪奇マンガの蒐集を始めておりました。
そうした折に、このマンガと再会したのであります。
小躍りしながら、読み返し、感動を新たにする…ようなことは全くなく、カックン拍子抜け之介だったのであります。
あれれれれ、ちっとも怖くないし、大して面白くもないぞ…。
その時、私は子供だった時分、鋭敏だった感受性・想像力がすっかり鈍磨してしまったことを思い知らされたのでありました。(現在進行形であります。)
残されたのは、単に「懐かしい」の一言で片づけられる記憶だけ。
あの頃のように、ドキドキして、震え慄きながらも、ページを一枚一枚繰る事は決してありません。
まあ、私はド田舎のクソガキでしたから、美化したところでやはり大したことはないのでありますが、これが私の「イノセンス」なのであります。
ちなみに、作者の三原一晃先生についてです。
「あとがき」の作者紹介にて、「満州生まれの大連育ち」とか「はっきりした年齢は誰も知らない」とか「東京近郊のある森の中のツタの絡みついた古い洋館に、ひとり淋しく住んでいる」とか「つねに仮面をかぶっている。…人は「七つの顔を持つ紳士」とか、「仮面紳士」と呼んでいる。」云々と書かれておりますが、多分、全てデタラメです。
絵柄から判断する限り、三原一晃先生は「広永マキ」先生と同一人物で間違いないと思います。
広永マキ先生は現在、全く評価は高くありませんが、「さそり座の少女 呪いのほほ笑み」は、私の人生にとって、これまた思い出のある作品なのです。
実際、この作品に出合わなかったら、もしかしたら、このサイトを開くことはなかったかもしれませんので、妙な因縁ではありますが、これも一つの縁、いやはや、「縁は異なもの味なもの」なのであります。
・注1
私にとって、怪奇マンガと言って、すぐに脳裏に浮かぶのは、「今夜は眠れない スリラー・ショック!!」でおなじみ、立風書房のレモンコミックスであります。
あの背表紙上部の、土気色した顔色の、おかっばの女の子のマークすら怖かったです。
レモンコミックスはど田舎の本屋の片隅にもありまして、その黒光りする背表紙には近寄りがたいながらも、小学生の私を惹きつけてやまない何かがありました。
こいつがホラー好きの「血」ってやつでしょう。
2016年11月2日 ページ作成・執筆