西たけろう「吸血蛾人」
(1977年6月15日第一刷・1980年12月15日第十刷発行)

「両親を交通事故で亡くし、健太郎と鏡子の兄妹は屋敷で仲良く過ごす。
 健太郎は昆虫が大好きで、父親と同じく、科学者を目指す。
 望み通りに科学技師となり、美しく優しい夕子と結婚。
 三人は幸せに暮らしていたが、彼がある研究を始めた時から、その幸せに陰が差し始める。
 彼は庭の研究室から出ようとせず、夕子や鏡子に近付くことさえ禁ずる。
 それにも関わらず、夕子は研究室に入り、顔に火傷を負うが、研究内容については口を閉ざしたまま、研究をやめさせようとする。
 ある時、研究室から彼の悲鳴が上がる。
 夕子と鏡子が駆けつけると、健太郎は物陰から「頭と手が人間の形をした蛾」を探すよう頼む。
 とは言え、広大な屋敷の中から、奇妙な蛾を一匹、見つけると言うのは不可能に近い。
 更に、夜中に、夕子と鏡子は蛾の大群に襲われる。
 翌朝、二人が研究室に行くと、健太郎は上半身を布で覆い、二人に家を離れるよう言う。
 鏡子は友人の明子の家に泊まるが、夕子は彼のそばにつく。
 研究室で彼女が見たものとは…?
 一週間後、鏡子が家に戻ると、夕子は、友人から預かったという赤ん坊を抱いていた。
 その奇妙な赤ん坊の正体とは…?」

 巷では、さほど評価の高くない作品のようですが、非常に丁寧に描かれた佳作だと私は思います。
 評価の高くない要因は、ジョルジュ・ランジュラン「蠅」そのまんまなためでしょう。(あとがきでも原作小説について触れられてます。)
 ただし、「蠅」なのは前半だけで、後半は「頭と手が人間の形をした蛾」についての物語となり、実はここからが見所です。
 終盤では、人間に戻る為、ヒロイン達を物質転送機の実験台に使おうとしており、デビッド・クローネンバーグ「ザ・フライ」をちょっぴり先取りしていたかも。
 でも、カブトムシ女なんかも出てくるので、やっぱり「B級」なのでした…。

2021年11月2日 ページ作成・執筆

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