ムッシュー・田中「吸血鬼がくる館」(1980年8月15日第1刷・1982年7月15日第4刷発行)

「横浜。
 シスター女学院一年生の紅緒絹子は、ある雨の日、九鬼影彦という名の好青年と出会う。
 彼は、貿易商の父親と共にルーマニアから帰国したばかりで、精霊館に住んでいた。
 彼に誘われ、絹子は、女友達の市川裕子、五味ちえみと一緒に、精霊館を訪れる。
 影彦の父、九鬼赤麿は紳士然としてはいるが、夜行性の気持ちの悪い動物を屋敷いっぱいに集めていたりして、どこか近寄りがたい。
 また、皆が紅茶を飲んでいる中、影彦のみ、濃い赤色をした飲み物を飲む。
 彼によると、それは栄養剤で、幼い頃から、それで育てられてきたという。
 その日の夜、絹子の寝室に影彦が忍んできて、二人は愛を告白し合う。
 以来、二人の仲は急接近、休日はデートをして、楽しく過ごす。
 しかし、影彦の父親は吸血鬼であり、影彦にもその血が流れていた。
 裕子とちえみはその毒牙にかかり、吸血鬼と化す。
 また、絹子も、影彦に夜毎、血を吸われ、徐々に衰弱していく。
 だが、二十歳にならない影彦はいまだ自身が吸血鬼であることを知らず、絹子と結婚しようとする。
 影彦に精霊館へ招かれた絹子は、彼を呪われた血から救うため、彼と共に赴く。
 吸血鬼に娘を殺された今沢医師と絹子の父親は吸血鬼を倒そうと精霊館に向かうのだが…」

 レモン・コミックスで西洋のモンスターを題材にした作品を描いた、ムッシュー・田中先生。
 個人的には、ひばり書房黒枠単行本時代の五島慎太郎先生と同じ立ち位置にあると考えています。
 五島慎太郎先生の作品はとにもかくにも「味」でありましたが、ムッシュー・田中先生は「大仰さ」で勝負!!
 この絵といい、セリフといい、あとがきといい、やけに「大仰」なところが、下手すれば古色蒼然なストーリと、奇跡的なマッチングを見せ、面白いです。
 また、力の入りまくった「吸血鬼図解」(注1)「吸血鬼の館図解」「吸血鬼のふせぎ方」といった解説が、ハッタリかましまくっていることは百も承知ながらも、こちらのハートを鷲掴みして、放しません。(チビっ子達が、鼻の穴を膨らませて、食い入るように読んでいる様子が脳裏に浮かびます。)
 そして、最大のポイントは、血を吸われる女性の「妖艶さ」でありましょう。
 ぶっちゃけ、雰囲気はエロ劇画と同様で、「エクスタシ〜」とピンクなため息をつかずにおれません。
 ちなみに、ラストはナサニエル・ホーソーン「ラパチーニの娘」で、あまりの「大仰さ」に笑っちゃいました。
 B級ではありますが、私は好きな作品です。

・注1
 「吸血鬼図解」(pp90・91)での、「足の裏は何にでも吸いつくようになっていて、すい直な建物でもかけ登ることができる」との解説に付いている絵が気持ち悪いんですけど…。(足の裏に、魚の目ちっくな吸盤びっしり)

2017年6月15日 ページ作成・執筆

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