成毛厚子「水迷宮@」(1985年11月20日初版第1刷・1986年10月25日第5刷発行)
収録作品
・「柘榴幻想」
「絢子は物心ついた時から、柘榴の木の夢をよく見た。
薄暗い夢の中では血の色をした肉の実が熟んで饐えた匂いをさせ、その夢を見た後はその木のある場所に行かなければならないという焦燥感にかられる。
彼女が浪人して三か月の頃、遠縁の女子大生のはるかが帰省するというので、彼女のお供をすることとなる。
はるかの実家はひなびた田舎で、遠縁の親戚と言っても見知らぬ人ばかり。
だが、認知症の入っている祖母は彼女を「みいちゃん」と呼び、馴れ馴れしく話しかけてくる。
話を聞いているうちに、祖母は絢子を彼女の祖母の「みわ」と取り違えていることがわかる。
また、二人の共通の友達に雪乃という少女がおり、彼女は金持ちの美しいお嬢様で、二人は彼女に憧れていたらしい。
そして、この家の裏には彼女が夢で見る柘榴の木があった。
柘榴の木の夢が祖母たちと関係があると感じ、絢子は祖母に探りを入れるのだが…。
夢に秘められた恐ろしい過去の出来事とは…?」
・「炎天」
「残暑のきつい東京のある洋館。
ここには絵描きの兄の隆一と美しい妹の千晶(16歳)が住んでいた。
兄は妹を溺愛し、彼女を汚れた世間に触れさせまいとする。
ただ、彼女には基彦という想い人がおり、彼と手紙のやり取りをすることが心の支えになっていた。
ある日、村岡エリという若い娘が家政婦としてやって来る。
エリは非常にがさつ、かつ、無神経で、兄妹の神経を逆なでしまくる。
だからと言って、千晶に家事はできず、当分の間、エリを雇わざるを得ない。
千晶はエリに対する憎悪を募らせ、彼女を庭を荒らす「もぐら」と重ね合わせる。
しかし、兄は彼女の肩を持つようになり、更に、基彦も手紙で彼女を弁護する。
孤立無援となった彼女は家の周囲をもくらに囲まれているように思い始める。
彼女はもぐらを殺すため、物置小屋でスコップを手にすると…」
・「殻」
「佳奈はアパート暮らしの大学生。
彼女の隣の部屋には田島和子という一人暮らしの女性が住んでいた。
田島は不愛想かつトラブルメーカーで、アパートの住民から忌み嫌われていたが、佳奈は彼女をかばったことから親しく付き合うようになる。
田島は以前、OLで、二つ年下の後輩と恋に落ち、身も心も捧げ尽くすものの、彼は交通事故であっさり亡くなってしまう。
彼女は悲嘆に暮れるが、彼が彼女に遺した「かけがえのないもの」のお陰で生きていけると話す。
それは彼と彼女との「きずな」だというのだが、一体…?」
・「生贄」
「卓也は夢見がちな少年。
彼の母親は教育委員で、彼をガチガチに束縛し、息の詰まるような毎日であった。
初冬の夕暮れ、彼は裏の空き地の草むらで「妖精」を見つける。
それは非常にきゃしゃで、軽くて、儚げで、絵本そのままの姿。
彼は「妖精」を家に持ち帰り、ボストンバッグでこっそり飼い始める。
「妖精」はとてもいたずら好きで、彼はふりまわされてばかり。
でも、日ごと、親密さを増していき、彼はすっかり「妖精」に夢中。
そのせいで彼の成績はますます落ち、また、肉感的な「女」というものに対し嫌悪感を強めていく。
同時に、「妖精」のいたずらはますます激しくなり、脅迫の度合いを帯び始め…」
・「ボビィをさがして」
「二コラが目覚めると、見知らぬ部屋にいた。
馴染みのないものばかりで、階下に降りると、そこにいたのは彼女の両親でなく、これまた、見知らぬ人ばかり。
彼らは彼女の親戚で、、彼女の両親が仕事でスイスに行っている間、彼女はこの家で暮らしていると説明するが、どうも釈然としない。
それに、彼らは彼女を家に閉じ込めようとしていた。
それでも、彼女は午後にボビィとデートに行かなければならない。
彼女は二階の窓から脱出して、ボビィの家を目指すのだが…」
「水迷宮」は「プチコミック」1983年6月号から始まった「恐怖シリーズ」です。
講談社に描かれたものよりも高い年齢向けの内容で、幻想的な色合いが濃いです。
それ故に、「何だかよくわからない…」といった印象の作品も多く、人によって作品の評価は分かれるのではないでしょうか。
個人的には、「柘榴幻想」「炎天」の出来がいいと思います。(注1)
「生贄」はストーリーはいいのに、どう考えても納得できない点があり、残念です。
・注1
「炎天」は水ポテト先生「モグランド」を先取りしたのでしょうか?(個人の妄想です。)
「モグランド」、期待大です!!
2025年3月17日 ページ作成・執筆