成毛厚子「水迷宮A」(1987年3月20日初版第1刷・1988年7月25日第6刷発行)
収録作品
・「鳥葬@」
「依光鏡子は会社の上司の斉木と不倫関係にあった。
ある日、彼女は奇妙な婦人と知り合う。
彼女は真夏にもかかわらず、コートを着て、手袋をしていた。
鏡子は彼女の家を送ることになるが、家の中はめちゃくちゃに荒らされ、彼女の身体にはあちこち傷があった。
彼女は京子にことの経緯を話す。
始まりは小さな卵で、いつの間にか彼女は掌に抱いていたという。
中から黒いヒヨコが出て来るが、それは見る見るうちに大きくなり、彼女を突いて責め苛むようになる。
彼女は黒い鳥に四六時中見張られ、常に怯えながら生活していた。
突然、婦人は鳥が戻ってきたと言うと、二階の部屋へと逃げ込む。
中からは助けを求める声と羽音が聞こえ、鏡子がその部屋にとび込むと、婦人は窓から飛び降りて死んでいた。
その時、鏡子は彼女が斉木の妻だと気づく…」
・「鳥葬A」
「斉木の妻の死後、鏡子も鳥の気配に悩まされるようになる。
斉木は鏡子を家に来させるが、斉木の娘の毬絵は全てのことを見透かしているようで気味が悪い。
斉木の娘からもらった木箱に入っていたものとは…?」
・「鳥葬B」
「黒い鳥だけでなく、毬絵の嘘にも鏡子は追い詰められていく。
斉木は彼女の言葉を信じず、また、刑事たちには斉木の妻殺しの疑いをかけられていた。
鏡子の運命は…?」
・「呪文」
「夏目みゆきは平凡な日々を送る平凡は主婦。
彼女の隣には壬生という謎めいた男性が住む洋館があり、近所の噂の的であった。
ある日、彼女の家に壬生の家の荷物が間違って配達される。
それは大量の魚のアラとくず身で、彼女は壬生の生活を知るチャンスだと思い、それを届けに行く。
壬生は非常にハンサムな青年であったが、ひどく不愛想であった。
それでも、みゆきが理由をつけて中に入ると、台所はほとんど使われた様子はない。
壬生は魚のくず身はペットの餌だと説明し、そのペットは「世界中を食べつくし遊びつくした」彼が「やっと見つけた最後の道楽」だと話す。
ペットの正体については明かさなかったが、このところ、みゆきの近所ではペットの犬や猫がなにものかに喰い殺される事件が続発しており、彼女はそれと関係があるように思う。
翌日、彼女は壬生の屋敷を訪ね、彼に彼のペットが動物を襲ったと鎌をかける。
だが、彼は全く動ぜず、逆にみゆきは彼に魅せられ、肉体関係を持つのだが…。
壬生が夢中になっている「ペット」の正体とは…?」
・「窓」
「栗原路子は父を早くに亡くし、母親と寂しくも平穏な毎日を送っていた。
だが、何故か、母親はいつも何かに怯えており、常に窓を閉め、カーテンを引いていた。
母親の死後、路子は家を売り、大学に行くため、上京し、アパートを借りて住む。
そんなある日、親戚はいないはずなのに、神奈川に叔母(母の妹)がいることが判明する。
叔母は海辺の古い家に住んでおり、病弱なため、子供の頃からずっとベッドから離れられない生活を送っていた。
叔母から鏡子は両親が駆け落ちだったことを初めて聞く。
また、鏡子の母親は明るく健康だったと聞かされるが、鏡子の印象とは全く違っていた。
鏡子は叔母のもとを何度も訪ねるようになるが、ある日、恋人の結城が叔母の家を訪ねてくる。
叔母は結城を目にすると、急に涙を流し、抱きついてくる。
どうやら彼女の昔の恋人と勘違いしたらしい。
叔母は二人に謝るが、以来、鏡子の周辺では奇妙なことが起こり始める。
そして、彼女の部屋にはどこからか大量の砂が入り込んでいた…」
・「ミニ・エッセー」(文章)
「鳥葬」を描くにあたり、ゾロアスター教の本を読んでみたら面白かった…という内容。
後半にシニカルな視点が味わい深い。
確かに、天国よりも地獄の方が面白そうではある…。
良作揃いの単行本です。
ただ、どれも後味はかなり悪いですが…。
個人的なベストは異色なモンスター・ホラーの「呪文」。
退屈な日常の中、刺激を求める主婦と全ての快楽に飽き飽きした挙句、「地獄」に片足を突っ込む青年をうまくストーリーに絡ませ、現代人の歪な欲望をネガフィルムのように浮かび上がらせている…と言ったら、言い過ぎになるかなあ…。
2025年3月18日 ページ作成・執筆