成毛厚子「水迷宮B」(1987年8月20日初版第1刷発行)

 収録作品

・「ママへの贈り物」
「ママが死んで半年後、ジェシカのもとに新しい母親が来る。
 彼女はエレインという名で、三年間、ジェシカの母親の看病をしてくれた看護婦であった。
 ジェシカはエレインが来るのを待ち望んでおり、彼女を早速「ママ」と呼ぶ。
 エレインはお料理上手で家族の健康をとてもきづかってくれる優しい女性。
 また、その白い魔法の手は編み物も運転も何でもこなす。
 エレインはジェシカの生活へ干渉を強めていき、彼女の飼っていた小動物を勝手に処分してしまう。
 ジェシカが焼却炉の中にペットの死体を発見した時、エレインの魔法を解く鍵を見つける…」

・「電話」
「OLの好子は念願のマンションに引越しをする。
 引越し祝いに女友達と飲んでいると、彼女に電話がかかって来る。
 相手は「タケダトオル」という男で、好子を真由理という女性と勘違いしており、いくら否定しても、埒が明かない。
 会ってくれとあまりにしつこいので、女友達の一人は、明日三時に渋谷南口の「L」という喫茶店で待つよう言って電話を切る。
 翌日、好子たちはその喫茶店で男が現れるのを待つが、三十分経っても現れない。
 好子だけがもう少し待ってみると、「タケダトオル」らしい男が席に座っているのに気づく。
 彼女は気の毒なことをしたと思いつつ、喫茶店を出るが、会社から帰る途中、喫茶店を覗くと、男はまだ席で待っていた。
 その夜、好子にまた電話がかかってくる。
 罪悪感を抱いていることもあり、彼女は翌日、男と実際に会って、彼女が彼の言う真由理ではないことを確かめてもらうことにする。
 しかし、憧れの上司に飲みに誘われ、彼女はその約束をすっぽかしてしまい…」

・「遭難」
「江崎は雪山で海藤をクレバスに突き落として殺害する。
 海藤は常に江崎の一歩先を行くライバルで、どうあがいても江崎のかなう相手ではなかった。
 海藤の死後、江崎は海藤の恋人、かつ、社長令嬢の三津子と婚約する。
 三津子は海藤とのことを吹っ切るため、江崎に彼が死んだ場所に連れて行ってほしいと頼む。
 彼らは捜索隊と共に雪山に登山するが、途中、江崎は胃腸炎を起こし、岩陰で一人休養する。
 三津子たちは海藤の遭難場所に向かい、江崎はトランシーバーで連絡を受ける。
 三津子から海藤の所持品が次々に見つかったという連絡を受け、江崎は海藤が生きていたのではないかとの疑心暗鬼に襲われ始め…」

・「子守り唄」
「郁美は交通事故をきっかけに、村上雅文という資産家の息子と付き合うようになる。
 家では雅文の母が孫のことばかり言って鬱陶しいが、郁美はこの玉の輿の機会を逃すつもりはなかった。
 だが、実は彼女は処女ではなかった。
 前の男の子供を身ごもったことがあり、彼女の独断で堕胎をしていた。
 このことを雅文には隠していたものの、ある日、彼女は生理が来ないことに気が付く。
 しかも、身に覚えはないのに、身体には妊娠しているような兆候が現れてくる。
 彼女のお腹に潜んでいるのは…?」

・「夢」
「マーシャは灼熱の砂漠をさまよう夢を見る。
 夢から覚めると、そこはユージーンとの幸せな生活。
 しかし、いつの間にか彼と結婚していて、何だか頭がはっきりしない。
 結婚記念日というので、二人はレストランで食事をする。
 しかし、料理も飲物も土の味しかしない。
 たまりかねてトイレに行くも、水道の蛇口からは砂が出てくる。
 だが、彼女の次に黒髪の女性が水道を使うと、蛇口から水が出てくる。
 喜んで水に手を近づけると、彼女の背後にハゲタカが鏡に映っている。
 ハゲタカに襲われ、トイレから逃げると、彼女はまた砂漠にいた。
 途方に暮れていると、また夢から覚める。
 夢の中で夢を見ていたのだと彼女は安心して、ユージーンと食事に行くのだが…」

・「びん詰のステラ」
「貴和子の恋人の史郎は観光会社の海外開発部勤め。
 彼はナウルに一大リゾート地を作るプロジェクトに取り組んでいた。
 彼が帰国した時、彼は貴和子に南太平洋の水が入ったビン詰を見せる。
 水は青く澄み、向こうではお守りとしてプレゼントするらしく、貴和子は彼にこれをねだってもらう。
 ベッド横のスタンドライトの近くにビンを置いていると、いつの間にか紙片が浮いている。
 紙片には「HELP!たすけて」と書かれてあった。
 史郎にこのビンをくれたという現地の子供のいたずらかと思い、気に留めなかったが、翌朝、ビンの中の水がはね、紙片が浮き上がってくる。
 紙片には英語で長々と書かれており、最後の「もうじきしぬ たすけて」という文章だけがわかる。
 その日の晩にも紙片が現れ、英語を翻訳すると、ステラ・ミルフォードという女性がボートで遊んでいて漂流しているらしい。
 貴和子は日本語で返事の手紙を書き、ビンに入れてみると…」

・「ミニ・エッセー」
 成毛厚子先生のいたずら電話被害やストーカー被害に関する体験談。

 粒よりの短編が収められた短編集です。
 中でも、「ママへの贈り物」「遭難」「夢」は名編ではないでしょうか?
 やはり、まごうことなき短編の名手です。

2025年3月21日 ページ作成・執筆

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