成毛厚子「水迷宮C」(1989年2月20日初版第1刷発行)

 収録作品

・「腐った果実」
「片岡操子は男性恐怖症の娘。
 父親は由布子という女性と結婚したが、彼女はひどい男好きで、彼と娘を置いて他の男と駆け落ちする。
 これが原因で、父親は操子に貞淑な女性像を押し付け、自分以外の男を愛さないよう言い聞かせてきた。
 だが、彼女が26歳の時、父親は彼女を恭平という男性と見合いさせ、彼と婚約させる。
 結納の日、操子と父親が会場に向かっていると、車の前に一人の女性がとび出してくる。
 女性は軽傷で済むものの、ショックで記憶を失っていた。
 父親は彼女を家に引き取るも、彼女は商売女のように下品でふしだらで、操子は嫌悪感を抱く。
 しかも、実は記憶喪失は嘘であり、彼女は父親の愛人の亜弓であることが判明。
 父親は亜弓と一緒になるために操子を嫁に出そうとしており、操子はショックを受ける。
 彼女は家を出ようと考えるが、亜弓をのさばらすこととなるのも耐え難い。
 誰にも相談できず、悩む操子の前に見知らぬ少女が姿を現わすようになる。
 少女は操子に何かの果物を勧め、また、少女と一緒に額を割られた女も現れる。
 その女に触れられた箇所は腐り、徐々に広がっていくのだが…」

・「百火繚乱」
「原田美羽は大学生。
 ある年の冬、彼女は憧れの先輩である加納護から年末から正月の間、家に来ないかと誘われる。
 加納護は資産家の息子で、両親は既になく、志緒里という病弱な妹と二人暮らしであった。
 志緒里は非常に肌が白く美しい娘であったが、もの静か、かつ、慇懃無礼で、美羽はどう接していいのかわからない。
 最初の夜、美羽は志緒里が着崩れた格好で高笑いしながら月夜の庭園をさまよい歩くのを目にする。
 その姿は昼間の上品な姿からは想像もできない程、みだらなものであった。
 滞在するうちに、美羽は邸の庭園に陰惨な過去があることを知る。
 庭師の連続不審死事件…。
 庭園に現れる着物姿の女性の幽霊…。
 「死にかけた」庭園にもう一度花が咲く時…」

・「眠る魚」
「景子のいとこのあづみは山林王の一族である小木曽という男性と結婚する。
 ある週末、景子は小木曽邸を訪ねるが、小木曽は派手なあづみと対照的に非常に落ち着いた男性であった。
 彼の趣味は魚の飼育で、非常に珍しい魚を幾匹も飼っていた。
 景子も魚に関して知識と興味があり、彼の豪華なアクアリウムに魅了される。
 その中に一つ、プールのような巨大な水槽があった。
 中には海草はあるが、魚の姿は見えない。
 小木曽は、その水槽にいるのは『眠る魚』で、心に少しでもやましいものがある者にはその魚は見えないと話す。
 それから、数か月後、景子はあづみが行方不明になったとの知らせを耳にする。
 翌日に景子は小木曽を訪ね、それから、毎日、彼の邸に通うようになるのだが…」

 女性心理をテーマにした渋い佳作が揃っております。
 女の「情念」が扱われ、ドロドロしまくりですが、そこをシャープかつ美麗な描線でスタイリッシュな作品に仕上げております。
 個人的に感心したのは「眠る魚」。
 恐らくは、ジョン・コリアの名編「みどりの想い」が根底にあるように思うのですが、しっかりと別作品にアレンジされていて、成毛厚子先生の実力を感じさせます。

2025年3月25日 ページ作成・執筆

小学館・リストに戻る

メインページに戻る