成毛厚子「水迷宮F」(1991年1月20日初版第1刷発行)
収録作品
・「水槽」
「杏子は夫の正敏、幼い娘の亜由美と三人家族。
ある日、家族で訪れた村上記念水族館で杏子は勝也にそっくりな人物を目にする。
勝也とは二人が十代半ばだった頃、熱烈な恋愛をして、駆け落ちの約束をするも、彼は人目を避けるため、彼女の家まで泳ごうとして溺死する。
勝也にそっくりだったのは飼育員の佐治という青年で、顔だけでなく細い体つきもそっくり。
彼女は偶然と思い込もうとするが、正敏が娘のために熱帯魚を買ったペットショップにも佐治が勤めており、彼女が心の奥に封印したはずの勝也への思慕が蘇っていく。
遂には彼女は佐治と肉体関係を持ってしまうが、以来、彼女の周囲に彼の姿が見え隠れするようになる。
そればかりでなく、マンションの部屋の水槽にも何やら奇妙なものが潜んでいた。
佐治は一体、何者なのであろうか…?」
・「爪」
「本社のエリート社員の田所は地方の支所に単身赴任をする。
妻子持ちの彼が現地の不倫相手として目を付けたのは日野真由子という少し変わった女性社員であった。
日野真由子は人付き合いが嫌いで、友達もおらず、する話は宇宙人のことばかり。
彼女によると、宇宙人は地球人に擬態できるが、爪だけは地球人と違っており、表面が濡れていて、興奮すると伸びたり縮んだりする。
そして、宇宙人は伸ばした爪を地球人の背中に刺して、卵を植え付け、繁殖しているという。
田所は彼女とうまく話を合わせ、彼女と男女の仲となる。
二年後、彼は本社に戻ることになるが、彼の意に反して、真由子は彼との関係を続けることを望む。
彼は彼女を捨てるが、別れ際、彼女は彼の背中に卵を産み付けたと告げる。
彼は彼女の言葉を鼻で笑い、東京に戻るのだが…」
・「水の呼ぶ声」
「智江は友人たち(ミッコ、静ちゃん、山中、藤崎、孝平)と山中の親戚の別荘を訪れる。
別荘に向かう途中、智江たちは孝平に荷物を運ばせるが、別荘に着いたら、彼女の荷物だけない。
智江と孝平は駅に戻り、遺失物取扱所で彼女は自分のバッグを受け取る。
そこには彼女のバッグと似たバッグがあったが、それは電車の中で見かけた女性の持ち物であった。
智江はそのバッグがもぞもぞと動いているのを見ており、中に動物が入っているのではないかと係員に確認してもらう。
中には動物はおらず、中身はタオル・洗面道具・ハンカチだけであった。
智江は別荘に戻り、バッグを開くと、あの女性の荷物のハンカチが入っている。
今更駅に戻しに行くのも面倒で、彼女はそのままにするが、以来、彼女に奇怪な出来事が起こるようになる。
彼女の耳元では水音が聞こえ、身の周りのものが不自然に濡れる。
彼女にまとわりつくものの正体は…?」
名作「水迷宮」の最終巻です。
この単行本では正統派な幽霊譚である「水の呼ぶ声」が一番、出来が良いと思います。
ラストもさわやかで、どろどろした話ばかりの中でたまにこういう話と出会うと、一服の清涼剤になります。
2025年6月17日 ページ作成・執筆