阿南まゆき「ルーファスの収集品」(2014年5月5日初版第1刷発行)
ルーファス・ベリアルは旅回りの商人。
しかし、その正体は人間の「黒い心臓」を求める悪魔であった。
彼のコレクションにまつわる逸話とは…?
・「悪魔のキスは血の香り」
「ポルタ島。
エミリーは父親が島の有力者であることを笠に着て周囲の人々に威張り散らかしていた。
彼女の最大の楽しみは人を這いつくばらせ、頭を踏みつけること。
周囲の人々はエミリーの行為に眉をひそめつつも何も言うことができなかった。
ある日、島にビクトリアという少女がやって来る。
彼女は良い家のお嬢様で、療養を目的としていた。
エミリーはビクトリアをパーティに誘い、自分が人を踏みつける身分だと誇示する。
ビクトリアはエミリーに対し露骨に嫌悪感を表し、いじわるされている人は自分が守るから自分のところに来るよう勧める。
エミリーはカンカンになり、父親に言いつけるも、ビクトリアは王族の家系で、さすがの父親も手が出せない。
エミリーが寝室で悔しがっていると、そこに見知らぬ青年が現れる。
彼はルーファスと名乗り、ビクトリアを跪かせる良い方法を知っていると話す。
エミリーはその話に飛びつき、ルーファスはその代わりにエミリーも彼の願いを聞くよう契約を結ぶ。
彼の案はビクトリアそっくりの女性がポルタ島の人々を罵り倒す映像を島民たちの前で見せるというものであった。
それはうまくいき、エミリーはビクトリアを踏みつけにするのだが…」
・「悪魔はバラの音色がお好き」
「マリアはオペラ座の看板女優。
幼い頃、オペラに感激した彼女は貧しい境遇ではあったが、努力に努力を重ね、ここまで来る。
ある日、彼女に「たそがれの乙女」の主役の話がくる。
この作品は彼女がオペラの道に進むことになったきっかけで、彼女は大いに張り切る。
しかし、クリスティーヌという娘がオペラ座に入ったことで彼女の運命は暗転。
クリスティーヌの歌声は非常に美しく、皆、彼女の虜となり、「たそがれの乙女」の主役は彼女に代えられる。
クリスティーヌの圧倒的な才能の前に、マリアの心は嫉妬と憎しみでいっぱい。
そんな時、旅の商人を名乗るルーファスという男が彼女に声をかける。
彼は彼女に「美声のバラの種」を勧め、これを飲めば世界で一番美しい歌声になれると言う。
ただ、このバラの種は心の状態に影響されやすく、美しい歌声が似合うような美しい心の人であるよう警告されるのだが…」
・「悪魔は火の蝶をまとう」
「指名手配犯の通称「火の十字のジャック」は連続放火魔で、焼いた家は百軒、また、犠牲者は三百人。
ただ、ジャックについてわかっているのは、顔に十字の傷があることだけであった。
テッサはジャックの被害者の一人で、彼女の両親は火事で焼死し、彼女の顔や体には火傷の痕が残っていた。
一年経った今も彼女は火事のトラウマに悩まされ、ジャックの幻影に恐れおののく。
彼女はジャックの顔を見たはずなのだが、あまりに恐怖心が強いためか、いまだに思い出せない。
ある夜、屋敷に旅商人のルーファスを名乗る男が一夜の宿を求めに来る。
召使のグレンは追い出そうとするが、テッサは彼を屋敷に招き入れる。
翌朝、ルーファスは泊めてもらったお礼に「火蝶軟膏」という薬をテッサに贈る。
「これを塗ればさなぎが蝶に変身するようにどんな傷も完全に治癒」するという優れものであったが、これを使用する時は一切他の薬を飲んではいけない。
その夜、テッサは火蝶軟膏を体に塗るのだが、そこへ…」
・「わがまま女王と悪魔の時計」
「スカーレットは15歳でメルドール国の女王となる。
女王になった途端、彼女は意見する者の首を片端からはね、贅沢三昧。
圧政に飢饉や疫病が重なり、遂に国民は反乱を起こす。
スカーレットは隣国のパスティアに亡命しようとするが、どこもかしこも兵だらけで身動きがとれない。
そんな時、彼女は旅商人のルーファスと出会う。
彼はスカーレットに「絵描きの巻き戻し時計」を贈るが、これは一度だけ時を戻し、人生をやり直すことができた。
彼女はこの時計を使い、パスティアへの亡命に成功。
復讐に燃える彼女の前にルーファスが現れ、時計のお代を請求するのだが…」
・「悪魔は世界を救う」
「ルーファス・ベリアルが空を飛びながら獲物を探していると、ヴィヴィという少女に声をかけられる。
ヴィヴィは高い塔の最上階に監禁されており、ルーファスを天使と勘違いしていた。
あまりに純真無垢な魂にルーファスはここから立ち去ろうとするが、ヴィヴィがもうすぐ天に召されると聞き、不審に思う。
この建物は破壊魔神ゾマを崇拝する教団のもので、ヴィヴィはゾマを復活させるために生贄であった。
ルーファスがゾマの復活について調べると、まず最初に聖なる天使の血を捧げ、次に汚れなき少女の血と体を捧げると、少女の体にゾマは復活すると書かれてある。
しかし、天使はルーファスでさえも触れることができず、人間なら捕まえることなど絶対に無理であった。
ゾマ悪魔教団を率いるレイの正体とは…?
そして、ルーファスはゾマ復活を阻止できるのであろうか…?」
・「わたしのありえ騎士(ナイト)」(「ちゃおデラックス」2009年春の超大増刊号掲載)
「礼賀集(れいが・つどい)は幽霊を集めてしまう、難儀な体質。
高校の入学式当日も幽霊に追われまくるが、そんな彼女を一人の男子が助けてくれる。
彼の名は北央寺鉄幹、悪霊祓いのプロであった。
彼は寺で悪霊祓いの修行をしており、一体除霊をするごとに百円もらえるという。
彼は集に彼女の騎士になることを申し出て、二人は共に行動することとなる。
こうして、集は初めて平穏な日々を送ることができるようになるのだが…」
ルーファス・ベリアルのシリーズはよくできているとは思いますが、「悪魔はバラの音色がお好き」でのやり口が卑怯極まりなく(まあ、悪魔なんだけど…)、それが影響してか、あまり好印象を持ってはおりません。
それよりか、「わたしのありえ騎士」の集霊・除霊コンビの方が溌剌としていて楽しくありました。
2025年6月10・12・15日 ページ作成・執筆