諸星大二郎「未来歳時記 バイオの黙示録」(2008年7月23日第一刷発行)

・「野菜畑」(「ウルトラジャンプ」2000年2月号)
「トメオの野菜畑では、別の動植物の遺伝子を組み込んだ野菜を栽培していた。
 例えば、鶏の遺伝子を組み込んだキャベツ(チキンキャベツ)や、羊の遺伝子を組み込んだカリフラワー等。
 また、遺伝子植物が自然界に流出し、変異を繰り返したため、雑草にも気をつけなければならない。
 雑草はたちが悪いと聞いていたが、トメオは、若い女性の形をした「雑草」を見つけ、それを隠して育てる。
 ある日のこと、野菜畑を囲む電気柵に侵入者が引っかかり、捕らえられる。
 それは「難民」の青年で、トメオ達は、彼の足を地中に埋め、機械を装着し、案山子にする。
 ある夜、植物化した彼の前に、雑草の娘が現れ…」

・「幕間劇1 難民」(描き下ろし)
「農場を襲っても、その厳しいセキュリティシステムに手も足も出ない難民達。
 一人の娘は、鳥になることを願う…」

・「養鶏場」(「ウルトラジャンプ」2000年5月号)
「郊外の養鶏場。
 経営者はトウマル・イトーという青年で、養鶏場には、養鶏専門のロボットと彼一人だけ。
 彼の養鶏場では、鶏に人間の遺伝子を組み込み、鶏は人の顔をしていた。
 更に、鶏達は人間の言葉を喋るが、その言葉に意味はなく、単なる鳴き声に過ぎない。
 だが、交配用の雌を選別する鶏舎にいる「アケミ」という雌鶏だけはどこか特別で、人間と接するように会話していた。
 ある日、彼の養鶏場に来客がある。
 一人は食肉加工組合の組合長で、もう一人は有名レストランの女性シェフで、彼女は素材の鶏を自分で選びに来たのであった。
 女性シェフは「アケミ」を選ぶが、「アケミ」を捕まえようとすると、鶏達が大騒ぎする。
 しかも、「アケミ事件」の後、鶏達の様子がおかしくなり…」

・「幕間劇2 サトル1」(描き下ろし)
「サトルは、自分型のロボットに、これからはロボットがサトルだと命令する。
 サトルの身に起こったこととは…?」

・「案山子」(「ウルトラジャンプ」2006年8月号)
「荒れ地の一角にある、農家の田圃(品種はバイオニシキ)。
 この田圃を二十年来、「鳥」から守ってきたのは、カウボーイハットも粋な、誇り高きカカレンジャー。
 とは言え、七年前に、大型案山子グレート・カカシンガーを導入してから、彼は時代遅れの長物となり、死角にダミーとして置かれる始末。
 ある日、彼は、カカシンガーの銃撃を逃れた、一匹の傷ついた「鳥」を目にする。
 その「鳥」は、羽の生えた人間のようであった。
 案山子として駆除すべきなのに、彼はあえてそうせず、逃がしてやる。
 更には、ネズミ駆除用ロボットに追われている時には、燃料電池用のスペースに匿ってやりさえする。
 だが、「鳥」は田圃の稲を荒らし、農場主は「鳥」の居場所を突き止めようとする。
 「鳥」を守るため、ロボットを破壊したカカレンジャーは「鳥」を田圃から逃がそうと考えるが…」

・「幕間劇3 花」(描き下ろし)
「青年(恐らく「野菜畑」に出てくる青年)は「雑草」として長い間、放浪し、疲れ果てていた。
 荒れ野で、若い娘の形をした「草」が野ねずみにかじられているのを助け、その横に腰を下ろす。
 彼は、命が尽きるまでの間、彼女を守る決意をするのだが…」

・「百鬼夜行」(「ウルトラジャンプ」2007年2月号)
「サタマ市。
 子供達の間に「百鬼夜行」が噂が広まる。
 それは「荒れ地からお化けの集団がやって来て街外れを通り過ぎて行く」というものであった。
 ある夜、噂を確かめに、少年達が荒れ地の境目に来るが、一人抜け二人抜けして、残ったのはハルオだけ。
 そして、噂通りに、荒れ地から奇奇怪怪なお化けが列をなして現れ、いずこかに去っていく。
 彼が岩陰から様子を窺っていると、サチコという見知らぬ少女とはち合わせる。
 彼女は、「百鬼夜行」の後をつけようとしていた。
 彼女によると、あれはお化けではなく人間で、彼女は人を捜しているらしい。
 翌日、彼はバイオ地区で彼女に再び出会う。
 「百鬼夜行」は、バイオ地区の辺りから空港跡の方を通ると言われていた。
 二人は廃墟を探索し、サチコは「百鬼夜行」は空港跡で消えたらしいと考える。
 ハルオは彼女のために、昔の空港の見取り図をネットで調べ出す。
 二人が空港跡で目にしたものとは…?」

・「幕間劇4 サトル2」(描き下ろし)
「ゴミ捨て場。
 ゴミの中、子供タイプのアンドロイド、サトルが目を覚ます…」

・「シンジュク埠頭」(「ウルトラジャンプ」2007年10月号)
「遺伝子操作をされた魚が大量にいると言われるトキオ湾。
 ある魚取りの青年は、水没したビルで、人魚(♀)を目にする。
 彼は人魚とコンタクトを取り、友達同士となる。
 一方、執拗に人魚を探る新聞記者の男がいた。
 記者の正体とは…?」

・「幕間劇5 サトル3」(描き下ろし)
「荒れ地で、サトルは、蝶の羽の生えた少女と出会う。
 彼女はハルオという少年を捜していたが…」

・「風が吹くとき」(「ウルトラジャンプ」2008年4月号)
「化学汚染等で人が住めなくなった荒れ地。
 一人の男が、荒れ地の奥に向かっていた。
 途中、壊れた子供型アンドロイド、サトルと一緒になり、彼の案内で、「あれ」が出た人々が住む地域を訪れる。
 彼は、姿を消した恋人、ナオミを捜していた。
 捜すうちに、彼女は奥地にいるとの情報を得る。
 奥地からは「風」が吹いて来るが、その風が吹くとき…」

 人間が動植物化する世界を描いたSFです。
 と言っても、小難しい専門用語をくどくど並べ立てるタイプでなく、ファンタジーとホラー、風刺、ブラックユーモアが入り混じった、唯一無二の作風です。
 「ウルトラジャンプ」に断続的に掲載されたものを、大幅に加筆修正した上に、作品の理解を助けるための「幕間劇」を描き下ろしてあり、単行本を通して読むと、広大かつイマジネーティブな世界観に触れることができます。
 そのディープな世界観を、突き放しながらも、どこか温かい絵で包み込み、読み込む程に味わいが増す、いぶし銀の作品です。
 個人的には、「ドクター・モロー」の逆バージョンを目指したのでは?と感じました。(豹女とか映画の影響があるかも)

 お気に入りは、時代遅れになった案山子マシーンが意地を見せる「案山子」。
 「養鶏場」も奇妙なユーモア炸裂で面白いのですが、ラストがよく理解できませんでした。

2021年8月15・30・31日 ページ作成・執筆

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